小説


      SMF小説

                                    異空の神

第1巻



第 3 章

現 実 の 異 空



 I D 回 復



「翌日、飛行機の時間を意識しながらギリギリの時間に申し訳のような朝食を摂った二人は
タクシーを呼びLAXに急いでいた。
定刻どおりに飛びたったカリフォルニア・エアのジャンボ機はアトランタを目指し、
順調に飛行していた。さすがにこの日はなにごともなく二人は5時間の飛行を終え、
機はアトランタ・ハブ空港に無事着陸した。
ピーチトリー、ストリートの有名なホテルのスイートにとりあえず落ち着くと、
エリザベスが部屋のなかの電話器を手にし、なにか交渉を始めていた。

翌日の行動のためリムジンサービスをたのんでいたのだ。
「明日の朝は9時出発よ、市役所にいって、戸籍係に取材を申し込むの、
何か適当なIDが必要かも」
エリザベスが自らの航空会社のIDカードをテーブルの上に乗せる。
「これをたたき台にして何とか貴方やってみて」

「ここはもっとおおきなロゴ、ここはこの字体、
雑誌社の社名はWHAT THE TRUTH・」・・・・・

試行錯誤のうちに、かなりそれらしいものになっていき、
ブライアン、エリザベスそれぞれのIDカードが完成した。
さらにネームカードまで二人の分を用意したが、
これは出来るだけ使用しないことにする。
夕食を夜景のきれいなホテルのラウンジで軽く済ませると、
二人は、改めて、デイブの両親から、
デイブの双子の兄弟ブライアンがアトランタの裕福なラウル家にどのようにして、もらわれたのか、
というストーリー造りに真剣に取り組んでいた。無論主役はエリザベスだった。

「まず、デイブの母親は最初からお腹の中の子が双子だと知らされていた」
「でもお産の時の事故で、双子の片方が死産だったと医師から知らされる、」
「お父さんのほうは、その頃、農場の経営が思わしくなく、
親しかった産科の医師に借金の連帯保証人を頼んでいた、
金融業者は連帯保証人に狙いを定めていた。
医師は厳しい取り立てにたまらなくなる」

「そしてデイブの父親に、もし双子が生まれたら
金持ちで子供を欲しがっているある人の実子として引き渡すよう迫る」
「こんな筋書きにしておいて、アトランタのブライアン・ラウルがデイブの双子の兄弟だった」
「あとは、すべてあなたが記憶をすりかえたり、あいまいにしたりでOK」
ブライアンがエリザベスの筋書きに異論を唱えることもなくその夜は更けていった。

翌朝早目に支度を整えた二人は、17年前にはラウル夫妻と
その頃15か16歳の息子ブライアンが住んでいたことになる、住所を一応訪ねてみた。

そこは素晴らしい高級住宅街のなかで、
大金を投じブライアンを自分達の子供とし、
デイブの両親か、産科の医者かに大金を支払った夫妻が住むのに相応しい場所だと
二人は、目で肯きあっていた。高級住宅の中でも、
ラウル家のものだったと思える邸宅はズバ抜けて広く大きかった。
その足で市役所に向かった二人がアトランタ市役所の戸籍係に面会し、
さらに戸籍の原簿にあたるコンピュータのハードディスクを書き換え、
ブライアン・ラウルを生き変えさせる作業は、驚くほど簡単だった。

戸籍窓口でブライアンが口にした言葉は「戸籍の原本を訂正したい、
その作業が出来る人間を呼んで欲しい」
「それと我々が去ったら、我々がここに来たことを忘れるように」だった.

窓口の人間が素直に従い、“ジョージ・チャールストン、主任”と書かれた名札の男が現れる
ブライアンがやや命令口調で「協力して欲しい、ここの住所のブライアン・ラウルという
2001年当時16歳だった少年は生きている、
戸籍を復活させ、ソーシャルセキュリティーナンバーを復活、或いは新設して、
今日付けで転出ということにしてください、
証明書のようなものがあるならそれを出来るだけ速やかに作成し、
私にください、いいですね」住所を書いたメモを渡し「時間はどのくらい掛かりますか、早くしてください」
と言うと、ジョージが「申し訳ありませんが、私どものセクションだけでは、
おっしゃっているすべての事に対応できません」
「もう一つのセクションの人間も呼んでまいりますので、こちらの部屋でしばらくお待ちください」

そういうと案内した部屋からジョージが出て行き、
しばらくするともう一人の男と部屋に入ってきた。
男は角ばった顔で口ひげをはやし融通のきかなそうなきつい表情をしていた。
「ジョージがなにがなんでもというんで来たんだが何を馬鹿なことをいってるんだ」
「死んだ人間を簡単に生き返らせるなんて」といいながらブライアンをにらみすえる。

ブライアンは低い声で「これは、市長よりも、州知事、よりも、大統領よりも上からの命令だ」
「出生、死亡がなんとかというセクションが、君のところか?
とにかく私はブライアン・ラウルの戸籍、ソーシャルセキュリティーナンバーを
早くなんとかしろといったんだ」「わかるだろう、このことは国家的機密事項だ、
わかったね、今すぐ私の要求を実行しそのあとはすべてを忘れなさい、
何か聞かれたら馬鹿馬鹿しいマスコミ取材を相手にして
いくつか調べごとに協力したとでもいうんだ」

ジョージともう一人の男ローリー・ハミルトンが口をそろえたように
「はい、すぐ致します、セキュリティーナンバーも転出証明もお出しします、
30分以内で」と答える。雑誌社のIDも、ネームカードもなにも必要なかった。

ジョージとローリーがそろってあっという間に書類を整えて戻ってきた、
「何も問題のない書類になんだか大げさになさるようで面食らってしまいましたよ」
「それにしても冗談がお好きな方達だ・・・」
という声がローリーの口からもれたのも、特に気になることなく、
ブライアンはさらに慎重を期し、市庁舎全体に自分達の来訪を忘れるよう真剣に念を送っていた。
ブライアンの財布にソシャルセキュリティーカードがおさまると、
二人はすぐ市庁舎を後にし待たせておいたリムジンへと歩き始めた。

傍にいたエリザベスはあっけにとられ「私にも、今まであんな風にしたの」
とパニックに襲われたようにブライアンを見つめる。
「誤解しないでくれ、相当に念を込めて、ハッキリ意図したから出来たことで、
今まで君に対してそんなことを試したことはないし、
あんなことが出来るとも思っていなかったよ」「それにしてもやけに簡単だったな・・・・
まるで何も変更の作業などしていなかったみたいに早かった」
頭のなかでブライアンは首を傾げていた。

「それに、君だって僕に言ったじゃないか、僕が君を操ろうとする訳がない、
そんなことをしたら、・・・・今度は、僕の方が君の心が本心なのか、操った結果なのか、
わからなくなって、二人の関係が成り立たなくなるって」

「それと、思い出したけど、遥か昔に『奥様は魔女』っていうテレビドラマがあって、
サマンサって言う魔女が普通の人間に恋して結婚する話だけど」
「この世界ではどうだった、」
「確かにそんなドラマがあったと思うけど、」
「あのドラマのなかで奥さんのサマンサは旦那様を魔法で操ったりしないんだ」

「どうでも良く、只利用しようという相手以外にはそんな魔法は使わない」
「愛している相手にこそ、自分のことをなんの仕掛けもなしに愛してもらいたいんだよ」
エリザベスも、もともとブライアンが、自分を魔法にかける筈がないと主張していた手前
それ以上言いつのることの馬鹿馬鹿しさに気付いていた。

「わかったわ、もし私が魔法に掛けられて今貴方、と一緒にいるんだとしたら、
こんな風に疑ったり、憤慨することにはならないものね」

確かにそうだった、もし彼女がブライアンのコントロールで今の状態にいるとしたら。
余計な反発もしてこない筈なのだ。
「それよりも」ブライアンは思いついたように
「もう一つやっておきたいことが事があるんだ、
僕がこのアトランタで16歳の時に自動車運転免許を取得した記録と
今日の日付で再発行なりで免許証を手に入れておきたいんだ」
二人はそのまま近くにあることがわかった、警察の免許センターにリムジンを移動させ、
いともあっさりとブライアンの免許証を手にしたのだった。
二人はアトランタでやるつもりだったことが、あまりに簡単だったため、
リムジンの余った契約時間を郊外、と市内の観光に振り向けた。

リムジンで郊外をめぐり、市の中心部に戻る途中、
またあのラウル家のあったという、高級住宅地をひとめぐりした。

あのかって、ラウル家のものだったと思われる邸宅には、
かなり堅固なレンガの塀が巡らされ、
大型車が行き交えそうに幅のある、頑丈そうな鉄で格子状に造られた門扉は硬く閉ざされていた。
そして要塞のように堅固に立つ門柱には厳しい文字で縦にB/Lと刻まれていた。
そこに自分のイニシャルを発見してもブライアンは何かの偶然、
思い違いと感じエリザベスにも、なにもそのことを言わぬまま記憶から消していた。
ブライアンが急に思い出したように、口を開いた。

「僕が日本に居たとき、かなり年上の日本人の紳士とバーで知り合ったんだ、
その人は今はもう70歳以上になると思う」
「僕が会ったときその人は60歳くらいだったけれど、

その人にとっても30年近く前の話
だったんだけれど『貴方はアトランタに行ったことがありますか』と訊くんだ」

「彼は30年位前にアトランタでこんな思いでがあるんですよ、と話し出したんだ」
「当時、つまり今から40年も前に
会社のお得意様を招待して、アトランタに来ていたんだそうだ、
凄く暑い日だったといっていた」

「お得意さんはゴルフが好きな人ばかりで、
その日はジョージア・マフィアと呼ばれたカーター大統領のブレーンを招いて講演を聴いたんだが、
翌日は息抜きにゴルフをすることになった」
「それで彼は、自分だけが用意していなかったゴルフシューズを買おうと、
世話係のその彼だけ抜け出して、ホテルの隣のデパートに行ったんだそうだ」
「そこにはゴルフシューズは売られてなかった。お店の店員から、
『スポーツシュウズで十分では』、と言われても納得できないで、
彼は表の通りでタクシーをひろうと、ドライバーに
『ちょっと捜してるんだけど、この暑さの中で、僕のお客はゴルフがしたいという、
仕方がないんでゴルフシューズを買いたいんだ』

とひとまず白人のおじいさんドライバーに話しかけて、」
「それから、『どこかのゴルフショップに連れて行ってくれ、』と頼んだんだって、
しばらくしたら、そのドライバーに『さあ着いたよ』
と言われて外を見たら大きな黒い壁に半裸の女性が踊っている絵がかかれた
劇場みたいな建物の前だったって」

「彼は『僕はわざわざゴルフの話までして』
ドライバーのほうも『君も大変だね』なんて受け応えしてくれて、・・・・・・
『ゴルフ・ショップといったつもりだったのに、ガルズ・ショウって聞こえたのか」
って怒ってしまったそうだ」
「挙句の果てにオーダー・シューズの店に連れて行かれて
『いくらなんでも、明日までにゴルフシューズは作れませんって』
追い返され、最後の最後は『ゴルフシューズはきっとデパートにありますよ』と
ドライバーに言われ、元のデパートの前で降ろされ
てしまったんだそうだ、『御代は要りませんって云われたけれど、
ちゃんと払ったよ』だって」

当時のアトランタのダウンタウンはほんとうに僅かの建物しかなかったと云っていた」
「実は僕がアトランタに来たのは今回がはじめてなんだ、
あの日本人に随分と先を越されていたんだな」
「市の人口も今ではそろそろ400万人にもなるだろうけど、
当時、彼の話では150万人ぐらいのことを言っていた」

そんなブライアンの話をだまって最後まで聞いていたエリザベスは、
急に涙を浮かべながら小声で「何もかも同じ、アトランタには、
一度、彼の、・・・・デイブの出張無理矢理についてきてしまったの
時間が空いたときだけ一緒にいてもらえれば、いいからという約束で・・・・・同じ話を
デイブもしたのよ、車の中で」

「1996年だったかしら、アトランタ、オリンピックの時はこのあたりは
どうだったのかしら、もう今の情況に近いくらい本当の大都市ではあった筈よね」
リムジンの契約時間の4時間近くが過ぎ、午後の1時近くにホテルの前まで戻った二人は、
十分なチップの他に20ドルの昼食代をドライバーに支払った。

そして別れ際にブライアンが「きみが、何か、もし僕達の会話を聞いたとしても、
すっかり忘れるんだチップと昼飯代のこと意外はね」
と用心深く念をいれるのを聞いて、エリザベスが「すっかり、コツを飲み込んだのね、
なんだかやっぱり恐いみたい、でもそんな人が私の旦那様、心強いと思うべきね」
「貴方は、私の旦那さま、わかったわね、これから先もずっと大切にしてちょうだい」
命令調は、市役所でのブライアンの口真似だった。

二人がホテルに戻ると、エリザベスは顧客、案内係に
「有名な、ステーキの美味しい店があると聞いてるけれど、
今から昼食がとれるようなら予約を入れてくれない、ラウル夫妻で」と頼んでいた。
レストランはタクシーで数分のところにあり、
二人は独特のソースと香辛料で焼いた、やや薄めのステーキと付け合せの野菜、美味いパンという
なんでもないメニューに満足し、とりあえずキープしてあったホテルのスイートに戻った。

ホテルに戻った二人は何か急に疲労を感じた気分に襲われ、
巨大なベッドでグッタリとしながら、互いにしばらくは沈黙のまま時間を過ごしていた。
市役所での一連の出来事はあまりにも簡単だったが、
ブライアンにもエリザベスにもそれなりにかなりの緊張を強いたものだった。

急に思い立ったようにエリザベスが口を開く
「この後、早めにこちらを立つ便に乗れれば、ディナーの時間にロスに着いてるわ、
もうここには用はないし、出来れば明日にも、住民票、を私のコンドミニアムに移して、
ついでに運転免許証の住所も書き換えて、貴方のカードも作る」
「忙しすぎるかしら、でも私の休暇もあと3日しかないし、
ギリギリの予定じゃ二人の本当のハネムーンにならない気がするの、どうかしら?」


「よし、僕も早く、新しい住所に書き換えた免許証も、カードも欲しい、
今日と同じやり方で、警察、警察情報コンピュータ、銀行、銀行カードセンターといっきに、
ハードディスクも、ハードコピーの部分があるなら、それについても
明日やってしまおう、僕のための車も手に入れたい、細かいことでいえば、
この世界で通じる携帯も必要だし」

「携帯は私が買えばどうにでもなるわ」
「もし出来るとしても瞬間移動なんてやりかたは非常時のためだけにしたいし、
まだ実際どこまでどうやれるのか、
人に見られないところで実験する必要がある、
それにその実験場所を探すにも車は必要だ」エリザベスが何処かに問い合わせをし
「今直ぐチェックアウトしましょう、4時の便に十分間に合うから、
時差で3時間戻ってディナーの時間にはLAXよ」

二人は夕刻7時ちょうどにはLAXに到着していた。
空港ターミナルの中で食事を済ませると、
タクシーを拾いエリザベスのコンドミニアムの住所を告げる。
コンドミニアムへ到着するまでの僅かのあいだに、エリザベスは思いつめたように、
ブライアンを見つめ指をブライアンの太ももに食い込ませていた。

寝室に入るなり、エリザベスが「シャワーを浴びるわ、貴方も」
というと裸でシャワーブースに飛び込む。
ブライアンがバスタオルに身を包みベッドを見やったときには、
エリザベスはもうあの黒いタオル地のシーツの上に身を横たえ、
ブライアンが抵抗できないほどのあの象牙のように白く滑らかな、エロティックな
彫刻と思える裸身を晒していた。

ベッドの四隅からは本当にエリザベスの言っていた皮のベルトが引き出されていた。
ベルトは金具によって自由に長さが調節できるようになっているらしく、
それぞれの先端にも太さの調節できる輪になった皮ベルトで、
腕、足首、を巻き拘束できるようになっていた。
「私の、手、足、を思い切り広げさせて拘束して!!」
今日はお仕置きをうけるの、腰の下にあそこに立てかけてある、
あの大きな枕をあてて、・・・枕は直径が30CMもある円柱だった。

ブライアンが言われるままに、腰の下に枕をあてるとエリザベスは四肢を思い切りひろげさせられ
さらに下腹部を突き出す、世にも恥ずかしい姿だった。
そんなエリザベスの姿にブライアンは、経験したことのないほどの興奮を味わい、
我を忘れていた。エリザベスの叫びのまま、枕もとに既に用意されていた鞭を手にする。

鞭は先端がいくつにも分かれていてその一本、一本の与える打撃は僅かだということがわかった。
鞭はエリザベスの白い、たわわな乳房に何度もうちおろされ、
そしてあまりに恥ずかしく晒された、体の中心にまで何度も何度も炸裂した。
ブライアンの情熱はそんなエリザベスの白い乳房に歯を食い込ませ、
そして滑らかな腹部、を次々と噛み、吸いそしてついに体の中心に顔をうずめると
エリザベスの花弁に、そして、さらにその奥へと激しい愛の攻撃を加えていた。

嵐がおさまり「私、お仕置きされてしまったわ、もう出来るだけ貴方のいい子でいます・・・・
だから、もっと恐くてもいいから、またいつかあんな素敵な、お仕置きをして」
「あんな事って、誤解しないで、この世界の貴方・・・デイブが教えたことなのよ」
「でも貴方もまったく彼自身だった」
といってエリザベスが微笑みながらブライアンを抱きしめた。

時計の針は9時をまわっていた。その夜二人は今後のことはまた明日と言うことに決め、
夜景をみながらの楽しい話題に時を忘れていった、
会話の多くは、ブライアンのいた世界と今の世界の近代史といったものだった。
ブライアンにとってインターネットで検索すればいくらでも見つかる筈の
フィラデルフィア・エクスペリメントについての情報が
この世界に全く見つからないのは大きな発見だった。
この世界では全く知られていないか、無かったことのようだった。

歴代の大統領もブッシュ、ジュニアの再選がなかったこと以外は変わりがなかったし、
第二次世界大戦以前は二人の知識を総合する限り
これといった違いを見つけられないというのが結論だった。
ブライアンはすぐ隣に安らかなエリザベスの寝息を聞きながら、
なんとなく寝就くことができないまま、これまでのこと、
これからのこと、と思いを巡らしていた。
「この世界に、フィラデルフィア・エクスペリメントの記録は見つからない
と結論して構わないようだ、これも、
ブライアンにとって都合の悪いことは自動的に避けた世界に飛び込んだ」と
考えれば納得のいく問題だった。

「もし、この世界で同じ実験が行われたとすればあのニューヨークの受け入れ地点に
スタッフが居なければ、おかしい」

さらにブライアンはこの世界での自分の能力、それが何処までなのか、
その能力をどのように使えばいいのか、自分自身何を望んでいるのか、
この世界でどんな存在になりたいのか、なるべきなのか、
そしてこれほど、短時間のあいだに、
狂おしい程愛しく、離れがたい存在になってしまったエリザベスとのことが胸に迫り、
なにがしかの結論なしに眠りにつくことは不可能な気分を感じていた。

エリア60のあの施設でプレートに立ち、実験開始直前、漠然と、
「魔法使いのような超能力が振るえる世界に移動できるものなら」と念じていたことを、
ブライアンは改めて思い返していた。
この世界でどんな超能力を振るうことが出来るかはブライアン自身まだわからない、
先ず少しずつでも、そこを、見極めることが必要だし、
また同時にそれによりなにをするのか、何をしたいのかも考えなければならないのだ。

エリザベスという今や、これ以上はあり得ないと思えてきた女性の存在、
かつて思い描いたどんな女性よりも何の迷いもなくブライアンを求めてくれている、
しかもブライアンもあらゆる意味で今エリザベスを欲し、必要としているのだ。
ブライアン自身が気付いていなかった、顔形、姿、への好みを
エリザベスに気付かされたと言わねばならなかった。
そこまで考えて、あまりにもセクシーなエリザベスの裸身を思い浮かべ、
特におまけに・・・自分に潜んでいることを自覚させられたセックスでの
サディスティックな衝動にまで行き着くと思わず顔が赤らむ気分を味合わされていた。

この世界で富を得、いくつかの満足のいく屋敷を手に入れたい。
事業での成功、・・・・と思い浮かべたとき、
漠然と、アマンダとの生活を考えたときでさえ、
自分は軍人には向かないかもしれない。
自分が望んでいるのはアメリカンドリームの成功譚、のような人生かも知れない。
などと想像していたことが思い出された。

それは、今や問題なく実現しそうだった、
クロゼットの現金210万ドルはまだほんの手始めの気分でそこにあった。

ただ彼自身、魔法のように突然すべてが揃うことには抵抗があった。
周りが、はい、そうですかと納得することの不自然さは
どうしても否定できないと感じていたからだ。
世の中の富も権力もそこには、「そこに至る道というものが必要な筈だ」
「整合性のある富の形成を出来るだけ短時間で成し遂げること」
その夜眠りにつくためブライアンは自らに言い聞かせるようにつぶやいていた。

翌日エリザベスに急かされるように、
ブライアンはロスに本店を置くカリフォルニア、グランド銀行の窓口を訪れた。
目立たぬ紙袋に入れた50万ドルを手に、案内係に「現金50万ドルを預金したい。
早急に目立たぬよう、受付を済ませられるよう手配しなさい。
またこのことは私が去ったあと忘れなさい」
と命令口調でささやくだけで、次々と事が進んでいった。
個室に通され、対応した責任者に対し、
即刻のキャッシュカード発行、クレジットカードの発行を
求めたことでかなり混乱を生じさせたようだった。

開店直後に訪れ、すべてを揃えるのに昼過ぎまでかかってしまったが、
初めから睨んだ通り一応すべての機能を集約した本店としてここを選んだのが正解だった。
急いでランチを済ませ、警察で運転免許証の住所を書き換え、終えると
「いよいよ私たちのほんとのハネムーンよ、お金は十分あるんだから例え
仕事を首になっても特に問題もないし、
休暇の期限に拘らずに、楽しく過ごしましょ、いっそのことハワイにでも行こうかしら」
エリザベスのあまりにも幸せそうな表情に、ブライアンも
「ちょっと待って、僕のための車も欲しくなったな、
君がセダンだから僕はとりあえずということで、ジープ・チェロキーを買おう」
その足でディーラーに乗りつけ、
その場でブライアンは展示されていた特別仕様のグランドチェロキー、ロングサイズを契約してしまった。
そのまま乗って帰ると決めたブライアンの我侭にディーラーの店長がてんてこ舞いし、
結局二人はそれぞれの車で、アパートに戻り、改めて計画を練ることにしたのだった。

リビングのソファーに並んで座りエリザベスが「さあ何か楽しいことを計画しましょう」
と甘えながら抱きついてくる。

「一つ実験をしたいことがあるんだ」ブライアンが抱きとめながら耳元でささやいていた。
「僕と君のために大事なことなんだ、
実は君に危険なことがあったとき、
僕が居ないときにあのトレーラーの事故みたいなもので
君になにかがあったらと思うと心配で仕方がなかった。
それと僕の一寸した意識や念が本来の君に影響を与えたら、
かえって僕にとって辛いことだと気がついたんだ」

「それで君を護るバリアーのようなものを想像して君の身体を包んでみた」

「先ずひとつこれから、念を込めて君にある暗示の言葉を言ってみる、
それが君を動かさなかったら、成功1点」「いいかい」

「分かったわ、それでどんなことを私に命令するつもり?」

「テラスに出てメルセデスのキーを屋上に投げ上げるんだ」
すこしドスのきいた声でブライアンがエリザベスに命令する。
一瞬間があって、エリザベスが不思議そうな顔をする
「それってなあに、あまり意味がないことじゃない、別にそんなことしなくてもいいんでしょう」
「からかうの、は、なし」

「ベービー・・・僕はいま市役所の事務員に命じたときと同じ程度は念を込めて、
つまらないこととはわかっていても、思いついた事を言ったんだよ」

「君には暗示がきかなかった、ってことなんだ・・・・よかった」

ブライアンの喜ぶ顔をエリザベスが拍子抜けしたように見つめる。
「なんだか、変な感じだけど貴方は私を思うようにはコントロールできない
ということなのかしら?」
「いいわ、一応納得したことにしましょう」

「貴方の精神、神経コントロールからは守られたとして、
突然襲ってくるかもしれない危険から私を守るバリアーの方はどうやって、確かめればいいのかしら?」

二人ともどうすればいいのか即座に名案が浮かぶこともなく、沈黙の時が流れる。

「君を実験台にして危険に晒すことはできないんだから、何か代役を立てよう」

「いつかこの先ということになるけれど、砂漠の真ん中でその、
ペットボトルかなにかをバリアーで包んで、銃で撃ってみる、
今はそれくらいしか考え付かない」

エリザベスが愛しげにブライアンに寄り添い、
二人の会話は夕食をどうするかに移っていった。



異空の神 続き へ

異空の神 TOPへ



お節介親父へのメイルは
下記アドレスをクリックしてください
keisei@sfkt01.com



  

H.Tanaka Copyright (C) All rights reserved

 


お節介親父の
   ホームページ PART T
    サイト案内
   



 Topページへのリンク




   1  趣味と買い物      2  子育て何が大切?       3 酒と肝臓       
   4ゴルフって趣味?      5   車とドライブ        6   趣味の散歩・・? 昭和記念公園

   7  デジタルカメラとビデオカメラ    8  仕事の相手は機械
                              じやないよ

   9  人生の大きな買い物 住まい選び  10 仕事の悩み・上司の命令  11 日本・日本人について



 アメリカで経験した
  考えさせられる

   12 笑い話1 サンフランシスコのチャイナタウン   13 笑い話2   夏ロサンゼルスは暑い

   14 笑い話3   マスターズゴルフ 大物タレント赤面



   宇宙を考える

   15 宇宙を考える1 宇宙                  16宇宙を考える 2 人類

   17  宇宙を考える 3 UFO               18 宇宙を考える4 タイムトラベル
 


    19 お節介親父の
                プロフィール