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                                    異空の神

第1巻



第 3 章

現 実 の 異 空



 ハネムーン


「素敵な海辺のレストランの食事、そんな気分もあるけれど、
でも今日はもう車を動かすのも面倒かしら」
「どこか歩いていける近くのレストランを考える?」
ブライアンがエリザベスに「ちょっと立ってくれる、
それから靴をちゃんと履いて目を閉じてしっかりと僕を抱きしめてくれる、
いいと言うまで目をあけないで」
エリザベスが「なんなの」と半分抗議しながらも言われたとおり立ち上がり
目を閉じてほんの僅かの時が過ぎる。

エリザベスはかすかに身体が浮き上がった感じを味わい、
急に潮の香りを嗅いだ気がした。
「目を開けていいよ」ブライアンの声で目を開けたエリザベスが一瞬よろめいた
「え、これって何」
「どうやら、ここは、サンクレメンテのあの桟橋だよ、」
殆ど陽が沈みかけ、人影もまばらになった桟橋に二人は立っていた。
昼間あれほど青く見える海が、わずかの夕日を反射し、
全く違うもののように見えていた。
「海岸沿いにレストランがあるんだ、
予約リストに潜り込ませてもらっても、僕らはハネムーン、特別待遇さ」
食事を終えた二人が桟橋を歩き、辺りに人影のないのを見澄まし、
エリザベスのコンドミニアムへ消えたのは夜11時だった。

「あんなことが出来るのね、いっそハワイもあの手で行けないかしら」
そんなエリザベスの言葉にブライアンが「もう一度試してみるかい」
といいながらエリザベスを立たせるとしっかりと抱き、

また目を閉じているようにと耳元に囁く、今度は少し時間がかかったようだった。
急に足元が柔らかく不安定な感じになり、また潮の香りを感じる。「目をあけてごらん」
そこは、建物の陰になった、薄暗い感じの砂浜だった。
エリザベスの耳元でブライアンがやや不安げに囁くように説明していた
「僕の能力に間違いがなければ、ロイヤル・ハワイアンホテルのすぐ脇の砂浜だよ」
今度はさすがのエリザベスも驚きに身体を振るわせ始めた。
「貴方って、何処まで・・・・こんなことができるの、
いきなり今度は月の上に立たされるなんていやよ、恐い、恐すぎる」
震えの止らないエリザベスをブライアンは抱きしめ続けなければならなかった。

しばらくそうしながら、ブライアンはニューヨークからカリフォルニアに飛行機で移動したことが、
必要のないことだったのかも知れないと思うと同時に、
その場合エリザベスとの出会いがなかったことにも思い至った。

ハッキリと行きたい場所を特定し、
イメージすることができるときにはその辺りの今の様子が心に浮かび、
人に見られぬよう気を遣いながら、その場所に移動できる、
エリザベスも一緒に、・・・・そういうことらしかった。

そろそろと動き出しながら周りの様子をうかがうと、
やはりそこは間違いなくワイキキの浜辺に間違いがないようだった。
渚をたどった海に向かって左のほうには
ダイアモンドヘッドのシルエットがうっすらと浮かんで見えていた。

「ここがどこなのか間違いないみたい、もう大丈夫よ、
せっかくだから、インターナショナルマーケットの辺りを歩きましょう」

二人は誰に注目されることもなくカラカウア通りを歩いていた。
まだ通りはこれからという賑わいだった。そして、
ブライアンがハット気がつく、「ここではまだ夜8時なんだ」
そう言いながらブライアンの胸に今更のように「
よくも本当にいきなりここまで来てしまったものだ」
という驚きと、ショックが走り、
さすがにこれ以上の試みをその夜のうちにやってみようという気力は湧きそうもなかった。
「今晩はワイキキに泊まる方がいいような気がするけど」
「もちろんよ、今日はもうこれ以上ショックを受け止められそうもないもの」
「すぐそこがハイヤットだけど、泊まる部屋を確保しておこうか」

エリザベスはハンドバッグも持っていなかった。
この世界に来て初めて二人の支払いをブライアンのカードで
することになったようだった。

二人は一番値が張るため敬遠されていた唯一の空き室だったスイートを、
何の問題もなく確保すると、部屋を確認するのもそこそこに、
また直ぐカラカウア通りの賑わいに戻り、ハワイでのハネムーン気分に浸っていた。

エリザベスに当面必要なハンドバッグ、ハワイアンドレス、
と記念の指輪をプレゼントし、
ブライアンもハワイアンブルーにハイビスカスをあしらったシルクのアロハ、
白のシルクのスラックスを買い込む。
さらにブライアンはまたバリーの財布を注文すると、
財布を入れる紙製の箱を眺め、頷きながら店員に包装を頼んだ。
「またお財布が必要なの」と怪訝そうにしているエリザベスに「ウン・・」
と生返事がかえってくる。エリザベスはブライアンを見やりながら、
「何を考えているのかわからない、まあ、いいわ」とつぶやき
「私たち結婚式よりも、
ハネムーンのほうが先になってしまったわ、
結婚式はいつになるのかわからないけれど」と少し不安の表情を浮かべる。


「とにかく僕達の運命がどうなっているのか、僕にはこの世界に君だけしかいないんだよ、
これから先、・・・奇跡が君と僕を引き合わせた・・・・
調べてみたら僕とデイブは誕生日が同じ、双子の兄弟だったんだ、いうことで、
周りが納得して、それから、それからということ、なんだろう、ベイビー」

散歩と買い物に疲れた二人はホテルのデラックス、スイートに落ち着き
ワイキキの夜景と夜の海をながめながら、
備え付けのバーで、ルームサービスのマルガリータをすすっていた。

翌朝、ワイキキビーチの最高級スイートでの目覚めはまさに、
最高のハネムーン気分だった。
二人がカーテンを大きく開きテラスから眺める
ワイキキの浜にはもう多くの観光客が気に入った場所にビーチパラソルを立て、
南国の日差しを楽しんでいた。

ルームサービスを頼み、ゆっくり朝食を楽しんだ二人は
オアフ島、ハワイ島、マウイ島、とそれぞれ用意された
観光パンフレットをひろげていた。

突然「一つだけやってしまいたいことがあるんだ」
ブライアンが言いだした。
「すぐそばのショッピング、モールの屋上階にシューティング、レンジがあったんだ」
「えー・・・軍人さん!! 
腕をなまらせないようにハネムーンのあいだにも射撃練習をするつもりなの」
エリザベスが一寸不満そうに応じる
「ちょっと考えがあるんだ、そんなに時間はかからない、
お願いだから付き合ってくれないか」

カラカウア通りの反対側にあるそのモールは
昨晩ショッピングを楽しんだばかりの場所だったが、
そこにシューティングレンジがあることに、エリザベスは気がつかなかった。
ブライアンは財布を買ったときにもらった紙袋に何かをしまいぶら下げてきていた。

屋上階に行き、確かにそこにあったシューティングレンジの受付で
38口径の銃と弾丸を受け取り、指定されたレンジに入る。

ブライアンは割り当てられたレンジに置いてあった厚紙の標的に、
持ってきた紙袋の中から取り出したペンで、
何か文字を書き入れると大事そうに両手のひらに載せ、
しっかりと見つめながら祈るような仕草をする。

そしてその標的をこれも紙袋からとりだしたバリーの財布の
空き箱の蓋に裏側にしてセロテープで入念にとめる。

さらに箱の反対側、底のほうにもう一枚の標的を今度は表向きに
セロテープで止めたのだった。箱の底に表向きに貼られた標的を箱ごと、
そばに引き寄せてあるターゲットホルダーにセロテープでしっかりセットすると、
ボタンを押し5Mほど先に移動させる。
両手でしっかりと銃を構えたブライアンは一瞬の目線でエリザベスの耳栓をたしかめ、
続けざまに数発弾丸を発射した。


ブライアンは、38口径に安全装置をかけるとそっと、
すぐそばの小さな台のようなものに置く。
次にボタンを押し標的を引き寄せると、
セロテープをはがしながら箱の底に貼り付けてあった標的を手にした。
6発と思える弾痕が殆ど的の中心に集まっていた。

エリザベスが賞賛のまなざしで「あんなに早く撃ったのに殆どまん真ん中、
さすがは私の軍人さんね」
「違うんだよ、こっちを見てごらんと」
言いながらブライアンが箱の蓋のほうに貼ってあった標的を剥がし、エリザベスに見せる。

「意味がわかったかい」一瞬とまどいながらも
「・・・・こっちにも同じに穴が開いてなければおかしいの、よね・・・」

そこに書いてある字を見てごらん。
「エリザベスを僕の愛で守る・・ブライアン」
「何これ」エリザベスが顔を赤らめブライアンに抱きつく「こんなところで、危ないよ」
「ところで、その標的の紙に君の身代わりをしてもらったんだ」
「君を守るために念を込めてバリアーで君を包んでみたと言っただろう」
「君のときと同じにその標的をバリアーで包んだんだよ」
「ところで弾丸は結局どこにいったんだろう」
「これで箱の中から6発の弾が出てきました、
なんていうと結構安っぽい手品になるけど弾は何処かに消えてしまった」
「まあこれで君に、もし38口径の弾があたったとしても大丈夫だろうという気になれた」
・・・・ブライアンもエリザベスも箱の蓋に
針のような6つの穴が開いていることには気付かなかった。


二人は、シューテイングレンジを後にすると、
丁度ショッピングモールで客を降ろしていたタクシーをつかまえ、
どこかのレンタカーオフィスへ案内してくれるようたのんでいた。
「とりあえず今日は車を手に入れオアフを西、北とドライブするくらいがいいわ」

「昨日からあまり凄い変化ばかりで他の島への旅行を考えるのも落ち着かない」
というのがエリザベスの正直な気持ちだったからだ。
時刻はまだ午前10時半にもなっていなかった。
二人はトヨタのレクサス、ランドクルーザー4輪駆動を駆り、
H1を西へドライブしていた、パールハーバーを左に見てさらに西に向かい
途中から右へH2に入ると島を突っ切るルートでワイメアに出る。

さらにノースショアを進みワイキキの晴れた空がうそだったかのような
湿った空気に包まれながらドライブを続けた。
途中車を浜辺のパーキングに駐め人気も少ない砂浜を歩き、
またドライブを続ける、それでもまだランチタイムをそれほど過ぎない時間に
ワイキキに戻るとホテルの駐車場に車を乗り入れた。

「前にここに来たとき、日本人の友達にラーメンっていうヌードルを紹介されたの、
なかなか美味しかったわ」エリザベスの言葉に「懐かしいよ、
横田に居た頃友達と何回か食べにいったよ、美味しい店は限られていたけど」
「ワイキキに美味しい店があるのかな」
「僕はこの前ここに来たときにはトライしてないんだ」
「夜しか営業していないと思うけど、
美味しい寿司や日本食を出す店が近くにあったのはおぼえているよ、
それも人の紹介で行ったんだけどね」
「じゃあヤキソバ、とラーメンとぎょうざそれに中華風ピラフ
・・・そうチャーハンをトライしてみましょう」

エリザベスの一言で通りを歩き始めた二人は探すほどもなく
日本人のテレビ、キャスターが経営しているという店を見つけ、
カウンターでビールを飲み、ヤキソバ、ギョウザと平らげ
「たまにはこういうものも美味しい」と顔を見合わせていた。
食事が終わり、店を出た二人の足は自然とホテルに向かっていた。

「取りあえず、一度ホテルに戻ってこのあとの行動を相談したいわ」
エリザベスは急に何か考え込むようにうつむき加減で歩いていた。

ホテルの正面で部屋の鍵を受け取ろうとしていたときだった、
一人の女性がカウンターをまわりエリザベスのほうに近づくと
「エリザベスじゃない、何時からここに来ていたの連絡してくれれば、・・
ごめん私がここにいることも貴女知らなかったはずですもの」
「ワオ・・マイ貴女こそどうしてここに?」
「ご主人も一緒なのネエ・・いつまでこちらに滞在なの」

エリザベスがブライアンを振り返り
「彼女、前、話した日本人の、お友達、彼女アメリカ市民で同時に日本人なの」
いきなりの東洋系美人の出現だった。
ブライアンは気をきかせ二人から離れてしばらく見守っていた。
エリザベスが興奮を隠せない様子で
ブライアンのところに戻るまで5分ほどもかかっていた。
「お話は部屋に戻ってからにするわ」
エレベーターで客室最上階のフロアに着きスイートに入ると
堰を切ったようにエリザベスが話し始めた。

「彼女、オレンジ郡のプライベートスクールで小学校から高校まで一緒だったの」
「今は立派なキャリアウーマン、もうこちらのホテルの副支配人ですって」
「お勉強はすごく出来たほう」
「彼女には明日もうここを立たなければならないって言っておいたわ」
「明日で私の休暇は終わりだし、まだ仕事を辞めると、
決めてもいないし、貴方ともいろいろ相談しなくてわ」
「彼女、名刺をくれたわ、」

「それと、彼女デイブとの結婚式には出られなかったの
確かあの時は『仕事で日本にいる、残念よ』とメイルがあったわ」
「彼女、デイブの事故のことも知らないの、結婚のことは知っていても
その後のことを知らない人が殆どだから」
「それを知っているのはデイブの仕事関係の人ばかり」

「貴方も、一先ず私の休暇が終わったところで、
一人じゃないと落ち着いて考えられないこともいろいろあると思って」

「私が仕事で貴方から離れていても、
いきなり何処かに消えて居なくなってしまうようなことはないでしょ、
それだけは約束よ、ロスに戻ったら携帯も買ってね、
いつでもお互い連絡し合えるように」

「確かに僕もこれからのことだけでなく、
これまでの事、何がどうなっていて、
どうしなければならないのか、どうできるのか、
考える時間が必要かもしれない」
「でもこれだけは言っておく、今の僕には君しかいない、
本当の意味で君と離れる事なんて考えられない」
「この世界に僕は君を除いて一人の友人すらいない」

「友人や、愛せる人、好きな人は魔法だか超能力だか、
そんなもので造りだすことはできないんだ」

沢山の買い物のこと、エリザベスの友人の目、と考えれば、
瞬間移動でロスに戻ることには抵抗があったし、
まだそんなことを平気で繰り返せるだけの慣れもある訳がなく、
二人は翌朝のロス行きの客席を予約したのだった。

客席に多少の空きが見える機内で右側3人の席に二人だけ、
しかも、区切れ目のため前の席に人がいない。
という条件にブライアンが小声で話し始めた、
「多分、君以上に僕のほうが色々心配になるんだと思う。
もしものことを考えると携帯が使えないような状況でも
君が僕に連絡できるようにしておきたい」
「だから君が強く念じたときには、
僕にテレパシーのような通信ができるようにと考えているんだ。
それと普段僕の思念は君に伝わらないように君をバリアー、
というかシールドで守っている、
それが働いているということはなんとなく確かな気がするけれど、
もしもイザというときには君が許可したときだけ、
バリアーを通過して、思念が通じるようにと、いう風に考えているんだ」
「これからそんなことを良く念じ、祈ってみる」

ブライアンの言葉はエリザベスにとって簡単に「わかりました」
と云えるものではなかったが、
これまでの色々な出来事を考えれば、だまって肯かざるを得なかった。
数時間の飛行でLAXに到着したとき現地時間はまた3時間進み、
夕刻6時になっていた。
空港ターミナルでブライアン用の携帯を買い、
タクシーでこの世界にブライアンが現れ、
二人が初めて一緒に食事をしたあのイタリアンレストランに落ち着くと
今度はタップリと時間をかけたワインと食事で二人の休暇の最後を締めくくった。

休暇明けの朝二人で早い食事をとったあとエリザベスは仕事に就くため、
「帰りは明日のNY発の便の客室乗務、・・くれぐれも浮気はいけませんよ」
と冗談を言いながらも心残りの様子でメルセデスで出かけていった。



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