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                                    異空の神


第1巻



第 3 章

現 実 の 異 空

ボビーズプレース

翌朝二人が、早めに朝食を済ませるとエリザベスは簡単に後片付けまで済ませ、
NYへのフライトのため出かけようとしていた。
「前回のNY便では、大変な思いをしてしまったね、
いくらなんでももうテロ事件は起きないとおもうけど、僕も改めて、なにもおきないようには念じておいたから」
「それよりも空港まで、車の事故には気をつけて」
エリザベスのコンドミニアムでブライアンの方がエリザベスを送り出していた。

エリザベスが出かけてしまうと、今度はブライアンが出かける番だった。
ブライアンはジープ・チェロキーを駆り先ずロスのダウンタウンをドライブした。
何か次の行動のヒントを見つけたい気持ちだった。
ホテル、レストラン、種々の専門店、ブティック、改めて真剣な気持で見て廻っても、
気をひかれるようなビジネスのアイデアは涌いてきそうもなかった。

車はいつの間にか5号線を南に向かっていた。
このままいけばこの前訪れたのが、まるで何ヶ月も前の出来事のように感じられる、
サンクレメンテの桟橋、ミッション・ビューホーモールと、考えるうち、
いくつものデパートメントストアや専門店、
何でもいちどきに回れる場所・・・・・と辿り
あの世界一の規模といわれていたサウスコ−ストプラザを思い出した。


(サウスコーストプラザ:ロスの中心から車で1時間ほどにある、
規模では世界1と云われるショッピングモール )

サウスコーストプラザでデパートの化粧品売り場を通りかかりブライアンがふと思い出したのは、
日本に居た頃聞いた化粧品会社の話だった。
アメリカ資本のその会社が外部から日本人の経営者を起用したところ
その人のそれまでの人脈が役に立ち特殊な酵素の働きを生かした
画期的な化粧品を開発することになり、
そのアメリカ資本の会社はその製品が爆発的に売れたことにより大成功したという話だった。

しかしそのアメリカ資本の会社はその商品をアメリカで発売する試みはせず。
業績があがったところでその会社を日本で最大の、
確か桜の花と関係のある化粧品会社に新商品も含め会社ごと巨額の金で売り払いってしまい、
そのため功績のあったその日本人の社長はろくな報酬ももらえず追い出されたという話だった。
ブライアンはこれだ、と思った。
先ず小さな化粧品会社を買い取り、 
あの化粧品の技術にまだアメリカで手がつけられていないとすれば、
あの化粧品を導入し大々的に売るのだ。
化粧品メーカーは自社で独自に開発した技術、商品への拘りから、
他社で開発された技術を受け入れることはなかなかないということだ。
いい商品であれば売るのは簡単だ、
全米のご婦人に念を送ってブライアンの化粧品を買わせればいい、
品質がよければいくら売れても怪しまれる事はないだろうし、
その辺は調節しながらやっていけばいいのだ。

ブライアンはサウスコーストプラザを歩き回り書店で足を止めた。
小さな出版社を買い取り可能性のある作品を発掘すれば、
これも思い切り多くの人々に向け念を送ることにより、
ベストセラーを次々と生み出せる、という考えが脳裏に現実感をもってくる。

映画産業と手を結ぶことも次の手として考えられた。ブライアンの超能力を駆使しその結果、爆発的な大成功を収めることになったとしても、作品が良かった、ということで特別の奇異感を持たれずに済むはずだ。

とりあえず、二つのアイデアがブライアンの頭の中で実際の行動に進むための段階にまで固まりつつあった。ブライアンはデパートの化粧品売り場でコーナーをもっているメーカーの名をすべてチェックし「これら以外のまだあまり知られていないメーカーをインターネットで探してみること」と、急遽手にいれたメモノートに書き込んでいた。
ブライアンは一瞬で気がついたが、この世界に於ける自らの超能力をもってしても自分の頭の中に忘れることなくいつでも思い出せるような知識や記憶の引き出しは作れないようだった。

それにしても、元になる資金の調達をどうするか、は、まだ彼の頭の中で解決に至っていなかった。ブライアンが目標とする規模の成功に短時日で到達するため、何かを始めるには、
少なくとも、数千万ドルの資金、それも誰からも怪しまれない履歴の資金が必要な感じだった。

「何故それ程の短時間なのか、確とした理由はない、しかし何かがそう要求している」「先ずは資金」という強迫観念がブライアンを追い詰めはじめていた。

エリザベスのコンドミニアムに隠したあの210万ドルの残り、160万ドル、の現金だけでは全く問題にならなかった。
個人が生活し、一寸した贅沢をするための金としては当面十分な額であるとしても、いざ事業を、それも大きな利益を得られる事業を成功させるための資金としては、どうにもならない額だったし、いくつかの屋敷を持つという考えには到底足りる訳もなかった。
なぜそんなことが必要なのか?そんな気持ちにさせられている理由はブライアンにもハッキリ浮かんでこなかったのだが。

ほんの僅か前エリザベスとオアフ島をドライブし島の中央部に位置した山の頂上付近で見た大邸宅はいくらで買えるのか・・と思うと、この世界で自分に与えられているらしい超能力も小さなもののように感じられた。
いきなり「この会社、この邸宅自分のもの」というようなやりかたは出来るのかも知れなかった。
しかしそれではこの世界における多くの物事の整合が崩壊し、自分にそのつけが返ってくると確信できていた。
超能力であろうと魔法であろうと何十億の人々、この地球という星の陸地、海、その他の自然、動物達・・・すべてに責任を持つことなどあり得ない。

ブライアンの脳裏にそんな思いが巡り、例え神であっても「全知全能」なんていうことは無理な話なのではないか、何かの小説だか、映画だかで、神様というのが出てきて「わし、は忙しいんじゃ、どいつもこいつも、“お願い、お願い”で、もうどれを聞いてやって、どれを聞かない事にするか、くじ引きにしたいくらいじゃ」というのがあったような気がした。

ブライアンは元の世界でサウスコーストプラザ1階にあった、パンが美味しいと評判だったレストランがこの世界にもちゃんと存在していたことに驚きと喜びを感じ、やや遅めの昼食をそこで摂ることにした。


エリザベスの存在がなければ
これ以上わびしいことはないと思える観光客や家族連れに囲まれた一人の食事を終えると、
急に時間が気になり改めてエリザベスのプレゼントしてくれたロレックスに眼を落としたとき
ブライアンは今日が7月1日で、この世界にとびこんでしまって10日が過ぎたことに気がついた。
時計は午後1時半を指していた。
まだ一人でロスのダウンタウンに戻るには早すぎる時間だった。

フリーウェイにのり南に向かったブライアンは、
またサンクレメンテの桟橋を歩いていた。
周りに海を感じながら潮風に吹かれているうちに何かいい考えが浮かびそうな気がしたのだ。
子供たちも夏休みに入っており、桟橋には思った以上に人が多かった。
ほんの10日も前には、今の情況は全く予想もできなかったし、
桟橋を歩いていると、元の世界とは別の世界にいるのだということを忘れてしまいそうだった。

実は超能力とか魔法とか、何かの妄想にとりつかれていたのかもしれない。
そんな期待とも、不安とも言える感覚が、何かを試してみたい気持にさせていた。

確かめずにはいられない気持ちで、近くの水面から水の中へと徐々に意識を配り、
さらに探りを入れていくと体長4,50CMもありそうな大きな魚が泳いでいるのが見えた。
すぐそばで8歳くらいと思える金髪の男の子が釣り糸を垂れていることに気がついたブライアンは
釣り糸の下に魚を誘導するように意識を集中してみた。

そして魚に「美味そうな餌だぞ喰いつけ」と念を送ってやった。
僅かの間に金髪の少年の口から「ヤッター」という歓声がもれる。超能力は健在だったのだ。
ブライアンはだまってその場をあとにする事にした。
できるだけ海岸沿いの道を選びところどころで車を止め、景色を眺めながら考えにふける。

ブライアンがコンドミニアムの駐車場に車を入れたのは夕方5時だった。

ブライアンは、ふと思いつき歩き始めた。
記憶にあった近くの会員制のスポーツクラブまで足を運ぶと
受付のような場所で入会の案内と書かれたボードをゆっくりとながめる。
入会の手続きは簡単だった。
係りの人間を呼びその場で手続きを済ませる。
すぐ利用できるというので、受付カウンターでスポーツシューズ、トレーニングウェアを買い、
早速何日ぶりかの、ランニング・マシンとウエイトトレーニングに汗を流した。

入会の手続きをしてくれたジョージ・スミスと
あまりにありきたりの名札をつけた若いインストラクターにその場で、
実はどうでもよかったトレーニングメニューの相談をもちかけてみる。
「ジョージと呼んでいいかな」「入会申込書に書いたけれど僕はブライアン、ブライアン・ラウル」
「アトランタから最近移ってきたので、なんだかんだと忙しく身体がなまっているんだ」
「これからは、暇を見つけて顔を出すので宜しく」
と頼むとジョージもうれしそうに「アトランタ、!いいとこなんでしょ」と愛想笑いで応じてくれた。

ジョージはまだ20代前半に見える。
「お近づきのしるしにビールの1杯もおごりたいところだけど、まだ仕事なんだろう」
とブライアンが探りをいれると、
「もう勤務は終わってるんですよ、あそこにいる、ロッキーがここをかわってくれるんです」と、
こちらの方に向かって歩いてくる長身の黒髪の若者を指差す。
「ロッキー あとはまかせるよ、こちらMRラウル」
「今日からスペシャル会員になったんだ」
「 ブライアンでいいよ、そのスペシャル会員てなんだい」
「イヤその・・・まあビールおごってくれる人のこと、ほんとうにいいんですか」

「僕まだ学生でアルバイトなんですよ、先輩はクレジットカードもVIPスペシャルだし、
本当にスペシャル会員ですよ」
「近くにたまに行く店があるんです、ご存知ですか『ボビーズ・プレイス』・・
ブライアンが知るわけがなかった。

ブライアンはジョージに案内されその店に入った。
学生にとってはやや高級と思える感じのこぎれいな、スペイン風の店だった。
エリザベスのコンドミニアムから5分も掛からない場所にそんな感じの店があることを知り、
内心いい店を知る事ができたと思いながら、「ビールの種類は」とジョージに聞いてやった。
ブライアンにとって久しぶりに男同士の食事の機会で、実はかなりいい気分なのだ、
ということは、顔に出さないようにしておいた。

店の雰囲気と掲げているメニューはどこかそぐわないような気がしたが、
肉のたたき、サラダ、美味いソーセージと国籍不明のばらばらのメニューを二人で次々平らげる。
ビールからワインに変えボトルを1本空けたころには、ジョージがすっかり打ち解けていた。
「こんなに、ご馳走になっちゃって」しばらく間をおくと
「まさか、あっちの趣味の人じゃないんでしょうね」と半分心配そうにブライアンの顔を見る。
「違うよ、本当のことを話そう、実は、
アトランタじゃ事業がうまくいかなくなって、
まだ余力のあるうちに商売変えしようと思って、・・・
最近知り合った彼女のコンドミニアムに転がり込んだのさ」

「だからこっちには全然知り合いもいなくて、・・・
それに西海岸の若い人の感性、とか知りたいと思ったし、
これからの商売のヒントになるような付き合いが出来たらと思ったから君を誘ってみたんだよ、
まだぼくだって君たち学生さんの基準からすればリッチだしね」

「イヤ、イヤ MRラウルじゃなくて、 ブライアンで、いいですか、
入会手続きの住所を見させていただいちゃったんですけど、
住所・・すごい高級なコンドミニアムじゃないですか、彼女なんですか?
持ち主は?すみません立ち入った質問だったかな」

「君だから、許すよ、君が見かけによらず勉強家で将来に
野心をもっているのは僕の感でわかるんだよ」

やりたい事ではなかったが、まさかそっとジョージの意識、思考の表面に出てきた部分が
僕には読めるんだよとはいえなかった。
あらためて「人の意識や考えを探るのは、どうしても大事な見極めの必要なときだけにしよう」と
自らにいい聞かせていた。
さもないと世の中、知る必要のない、人の悪意、猜疑心にふれてしまい、
不愉快にさせられる事が多いこともブライアンにはわかっていた。

次に驚いたのはブライアンのほうだった。「僕も本当のことを言いましょう」
急にジョージが改まった口調になってきりだしたのだ
「MRラウル今日はウイークデイですよね、そんな日にまだ夜にもならないうちに
クラブにやって来るお客さんは大抵、いわゆる暇人なんですよ、
NY時間で仕事をしている人は別として、・・・
そうそんな人はもっと早い時間に豪邸のある郊外の方に戻って、
ゴルフかな、だからまあ、そんなお客さんはあんまりリッチでもないし、
そんな人がご馳走しようなんて、言うもんじゃないんです」
「いきなりご馳走しようなんて事を言う人は、
何か魂胆があるんです、だからどんな魂胆か確かめてみたい、
と思ったんです、恐い感じはあるけど、一応体力には自信もあるし」

「それと、僕の感なんですが、貴方には凄い組織の人とか、
偉い、軍人みたいな雰囲気があるんですよ」
「結構恐い人じゃないか、とも思いました。
ちょっとした商売をはじめるつもりくらいでカリフォルニアに来たというのもあまり納得いく説明とは、
思えないんですけど」

「本当は何なんですか、何か凄いことを考えているんじゃないですか」
「僕にはわかる気がするんだな、本当はものすごい金持ちでしょう、
そうでなければそんな可能性を持った人なんだ」

ジョージはカリフォルニア、オレンジ大学、経営、専攻の最終学年で、
体育が専門な訳ではなく、正式な資格を持ったインストラクターでもないこと、
卒業後何をするかをまだ決め切れないでいることなども話してくれた。

気がつくと2本目のワインを二人でほとんど空けていた。
その晩ブライアンはジョージと携帯の番号を交換し、
「これからも宜しく、また次の機会に西海岸の若者の生き方、考えといった、
ビジネスのヒントになるような話しを聞かせてもらいたいな」
と締めくくり、勘定を済ませ、ボビーズ・プレイスの前で別れた。

コンドミニアムに戻ると家の電話にエリザベスの伝言が入っていた。
「何処にお出かけなのかしら?もしもお邪魔だといけないから携帯にはしませんでした」
「無事NYについて今はホテルに居ます、
仲間の人たちとお食事して今落ち着いたところなの、携帯にお電話ください」

ブライアンはエリザベスの携帯を呼び出し、急に気がついた、向こうではもう真夜中だった、
あわてて電話を切ると直ぐにブライアンの携帯が鳴った、エリザベスだった。

「もう、一眠りしちゃって、目が覚めかけたところに貴方の電話だったの、
声が聞けたから安心して、また寝るわ」
「わかった、君が帰ったら、浮気はしてないことの証明をしなけりゃならないかな、冗談だよ・・
一人でいる間に今後のためできることを色々やってる」
「スポーツクラブの会員にもなったし」・・・・・

当然のことかもしれなかったがエリザベスも同じクラブの会員になっていた。
その夜は久しぶりにあれこれ考え込むことなく、眠りに就けそうだった。

翌朝、今では隣にエリザベスが寝ていない事の方が
不自然だと感じている自分に驚きながら目覚めたブライアンは、
TVをつけ朝のニュースショーをみながら簡単に朝食をすませた。

ニュースショーの話題が二日後に迫った独立記念日の数々の行事に移ると、
実験をはさみ、あっという間に過ぎた半月ほどの間の出来事、
自らの置かれた情況、そしてこの世界でも同じ日に独立記念日が祝われるという現実、
に今さらのように、殆ど知り合いも居ない今の自分が哀れにすら感じられた。
 昨年の独立記念日にはアマンダの得意先だった大金持ちの主催するパーティーに
無理やり付き合わされたのを思い出した。

かなりの大きさの客船と呼びたいようなヨットが会場だった、
船は夕方になるとバルボアのバックベイ(ニューポートビーチの入り江)を出て、
海岸を適度に離れ夜景を見ながらのクルージングで夜中まで招待客を楽しませてくれた。
改めて現実に戻った気分で、
ブライアンは昼時には戻って来る筈のエリザベスと午後を、どう過ごすか思い描いた。



エリザベスは今回は何事もなく
ブライアンの待つコンドミニアムに午後の1時前に戻ってきた。
「ちょっとお腹が空いたみたい,
貴方のランチタイムに合わせるつもりでまだ何も食べていないの・・・それからね・・・」
「私、明日から独立記念日をはさんで3日の休みになるのよ、今日も数えれば4日、・・
ハネムーンの続きよ、何をしましょうか」とエリザベスは声を弾ませている。

「君はお腹ペコペコなんだろう・・・
とりあえず何か食べに行こう、この近くにボビーズ・プレースっていうレストランがあるけど、
君は行ったことあるのかな?」
 
「そんなお店があるのは目にしたけど、一人では入りにくい感じのお店だわ」
「それでどうして?その店に行ってみたの?」

「そうなんだ、昨日あのスポーツクラブの若いインストラクターと知り合って、彼に紹介されたんだ」
・・・「本当に彼なの・・」
「一寸心配しすぎかな」

昨晩に続き今度はエリザベスと訪れたボビーズプレイスは
ランチタイムとしてはすこし遅めだったのかそこそこの広さの店に客が4,5人だけでかなり空いた感じだった。
「この世界で、僕には君しか居ない、唯の知り合いですら一人もいないんだ、
殆ど君と一緒に過ごせたこの数日、ピンと来ていなかったけれど」

「人と人の関係は、一朝一夕にできるものじゃない、
君とこういう風に一緒にいられるのは本当に奇跡なんだ」
「僕に都合のいい世界に来たと君は理解してくれたけれど、
他の人間関係まではそう簡単に手に入るものじゃないみたいだ」

「僕にとって君は本当に大切な存在だけど、
人間は社会性の動物だといわれているのが、昨日君と離れていて実感できた」
「それで何が言いたいの、他の女の人ともお付き合いしたいと言いたいのかしら」
めずらしくエリザベスが不満そうな声をあげる。

「そうじゃないだろう、・・・僕も何か仕事をするなりして、
そこに人間関係をつくりださなければ、と考えているだけさ」
「それと、この世界で僕は少しでも早く、君と一緒にリッチになりたいんだ」

「なんで急にお金の話になるの?大体貴方、今でも相当程度リッチでしょう、
自分の世界を持たないと友人も知り合いもない、それは良くわかるわ」
「でも、どうしてそんなにお金持ちにならなければいけないのかは判らないわ」

「私だって、素敵なお屋敷を世界のあちこちに持てるような身分に
なってみたいと思ったことはあるけれど」
「今は貴方と平和に暮らせればこれ以上の幸せはないと感じているの」
「あと、一月もすれば、両親もカリフォルニアに暮らすことになりそうなのよ」
「そしたら私たち、正式な結婚をするという前提でなければ一緒に暮らすのがむずかしいのよ」
「君がそういってくれる以上、僕だって喜んで君と結婚するさ」
あまりにもあっさりと彼女にプロポーズしている自分にブライアンは驚いていた。
アマンダとの結婚は事情が全く違うとは言え結論を出せないでいたからだった。
「でも僕がどうしても何かに突き動かされて、ものすごく短い時間のうちに
とんでもないほどのリッチに、ならなければという気持ちは自分自身理解できないものだ、
けれど、それは絶対なんだ」

ブライアンは昨日サウスコースト・プラザを歩きながら考えていたアイデアを話して聞かせた。
エリザベスが突然「日本に凄くいい化粧品があるって聞いたわ、
その化粧品をつくった日本人の社長さんて、あの、ハワイで貴方も会った、MAIのお爺さまのことよ、
今から何十年も前のことかも知れないけれど、 ワオー MAIに会いにいかなければ」
ブライアンは一瞬、いささかがっかりしていた、
「何十年も前? それじゃちょっと昔過ぎるかもしれないな、
それに彼女のお爺さんだろ、もし生きていたとしても90歳を超えているよ」

「ねえ、もういちどハワイに行きましょうよ、MAIと会うということだけじゃなくて、
ハワイが凄く好きになったの」
「だって、あの手があるでしょう、時間があったらいつでもスッと気分の変わる場所にいけるとすれば、
まずハワイって最高じゃない」
さすがに話の内容を人に聞かれてしまうことが、気になりだした二人は
コンドミニアムに戻ることにし、店を出た。


「話の続きだけど、昼日中に瞬間移動するのは危険だよ、
どこで人に見られるか僕にだって絶対の自信はないもの」 
「いい手があるじゃない、あそこで、眺めのいい、素敵なコンドミニアムを買えばいいのよ」
「そうすれば、車も買って、置いておけるし」
「この時間ならもうMAIがつかまるかもしれない、電話してみるわ」
「ちょっと、色んな話になりそうだし、向こうは仕事場だから、
私、寝室に行って掛けるわ」


エリザベスが電話をしているあいだ、ブライアンはリビングからの眺めを改めて見やっていた、
なかなかの眺めだったが、リゾート地の、のどかさはなかった。

エリザベスは電話を終え戻ると
「ねえ、凄いことになってきたわよ、まずMAIのお爺様は92歳でお元気なんですって、
耳が遠くなっているけど、ハッキリしているそうよ、
それよりも、貴方の言っていた化粧品は桜香堂という大きな化粧品メーカーで出していて
最近はますます売れているんですって、ところが、
凄いのはこの後なの、お爺様が功労者なのに報われなかった、
ということは化粧品の大元になっている凄い酵素の開発者、微生物研究所っていったかしら、
今では息子さんの代になっているんだけれど、
気には掛けてくれているんですって」

「だからその酵素の改良型を商品化する権利なら条件さえ納得できれば
差し上げるとお爺様には言ってるんですって」

「もっとも微生物研究所としては桜香堂に新しい酵素を使う契約をして欲しいらしいの」
「ところが今の商品が十分売れている桜香堂としてはその改良型の酵素に
新しく契約料を払いたくないし、
今度その契約をすると売り上げに対して何%支払うという
契約も新しく結ぶという条件になるらしいの」

「微生物研究所とかいうその酵素の配給元としては、
契約を新しくする気のない桜香堂に対しての半分腹いせ、
半分今の化粧品を商品化してくれて、
かなりのビジネスにしてくれたお爺様へのお礼で言っているらしいの」

「彼・・そのお爺様が契約に噛むということになると桜香堂も文句がつけられないんですって」
「桜香堂もその商品を開発したもともとのアメリカ資本の会社も、
何一つそのお爺様に報いてないから・・・」
「だから、話の持っていきかた次第ではいい展開が望めるかもしれないって」

「それとね、もう一つ、ワイキキ近辺のコンドミニアムでMAIのところに最高の話が来ているんですって、
値段的に彼女には手がでないこともあるけれど、
まだ結婚しても居ないのにハワイに住居を買う気にもなれないと思って、あきらめたんですって」
「まだ、売れていないそうよ、ここと同じ最上階の大きな部屋で
ルーフテラスからの眺めは最高なんですって」「MAIには明日の午後会いにいけるからって伝えたわ」
「コンドミニアムの値段は190万ドルだそうよ、
19階建ての最上階、最近の相場では230万ドルはする物件なんだって、
しかも180万ドルまでならまけさせられるって不動産屋が言っているそうよ、
ともかく、売主は早く換金したいので値を下げたんだそうよ」
この世界での、まさに、すべて自分の都合に合わせてくれるような展開に心踊る気分に浸りながらも、
「これから実際事業を展開していくため必要な、
整合性のある数千万ドルもの大金をどうやって手に入れるか」という問題は解決していない
という悩みがまだブライアンに残されていた。

企業を買収するにも、大きな契約金を支払うにも銀行口座からの振込みが必要だと思われた。
まさか現金を大きなスーツケース何個にも入れて運ぶ事などあり得なかった。
50万ドルを預金したときの現金のボリュームですら、あの大きな紙袋にいっぱいだった、
1千万ドルで、あれが20個、と想像すると笑い出しそうだった。
ブライアンの頭に突然閃いたのはエリザベスに咄嗟の言い訳で作り話をしたつもりの
NYの秘密金庫室の鍵とカードだった。実際にはカードは金属製で、
書かれていた住所はロスだとエリザベスが言っていた・・・


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異空の神 第1巻はこのあとも順次掲載していきます
既に完成済みですが、挿絵制作、文章校正のため
以降増ページまたは既に取得済みの別URLによりお応えしていく
つもりですお読みいただく読者の励ましをいただき
頑張っていきたいと思いますボリュームは単行本350ページ
ほどになります

お節介親父

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