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                                    異空の神

第1巻



第 3 章

現 実 の 異 空


恐怖のハイウエイ


二人はあまりにも不思議な物事の展開にしばらくは口を開くことも出来ず,
エリザベスの運転で5号線をさらに南へ向かっていた。
「サンディエゴの港を臨むシーフードレストランの窓辺に席をとって
太平洋に沈む夕日を見ながらの食事を楽しみましょう」
というエリザベスの提案は、

とりあえず今後の問題をしばらく忘れさせてくれた。
その夜エリザベスのクレジットカードのおかげで
堂々とサンディエゴのダウンタウンで一流ホテルに部屋をとることができたのは、
いまのところ、この世界でIDを持たないブライアンにとって、はじめて市民権を得た移民のような
喜びをもたらしてくれた。
林立するビルの向こうに夜の海を眺めながら、
ブライアンが背後からしっかりとエリザベスの胸を抱きしめる.
エリザベスがワンピースの肩を落とす。

二人はハネムーンの一夜のような気分にひたり、
ベッドの上で時を忘れ愛し合い、眠り、また愛し合っていた。

もはやブライアンにとってエリザベスは知り合ったばかりの女性
という感じの存在ではなかった。

迷い込んだ異世界で唯一の知人でありしかもこれ以上は望めない最高の恋人だった。
二人がサンディエゴをたったのは翌日も殆ど昼ごろだった。

エリザベスの運転するメルセデスは5号線を北へ向かっていた。
はるか前方に不法入国チェックのゲートが現れると

IDを持たないブライアンが
「不法入国者をチェックするゲートで止められたら、どうしよう」とつぶやく

「貴方の超能力でどうにでもなるでしょう」

「でも私が、
昨日ロスからサンディエゴへのドライブ出発の時に
夫は財布を忘れてきたどじなの、私の預金がガタ減りよ・・・・
貴方・・・後で私の支払い分ちゃんと返してよ、って騒いでみせましょうか」

と笑う、検問はどうということもなく、結局は全く問題なく通りすぎてしまった。

カープール(カープール:二人以上乗車した車に許される1番左側の優先車線)を
75マイルで快適に北へ向かっていた二人を右側の車線から
ゴウゴウとウナリをあげる大型トレーラーが追い抜いてゆく、
エリザベスがつられたようにメルセデスを加速し時速85マイルに達し
トレーラーを追い抜こうとしたそのときだった。
すぐ斜め右に近づいたトレーラーが突然ハンドルをとられたように
カープールに飛び込み側壁をこすりながら、さらに後部を横に振る。

エリザベスが悲鳴をあげブレーキを踏み込むのがわかったが
トレーラーは急速に眼前に迫っていた。
ブライアンの目に間延びした映像のようにトレーラーがせまるのと
「車ごと前方に退避しなければ」という意識が浮かんだのは同時だった。
次の瞬間メルセデスは大きく宙に浮かびトレーラーのはるかに上を前方に飛んでいた、
さらに邪魔する車のいない車線を確認するように着地するとそのまままた滑るように走っていた。


ブライアンが運転席に身を乗り出し、しっかりとハンドルを押さえる。
エリザベスも気をとりなおすように、スピードを緩め、通常走行車線に車を移動させていった。
なんとか体制を立て直したエリザベスが急にワナワナと身体を震わせる。

それでもエリザベスは車線を変更し車のスピードをさらに落とすと路肩に車を停車させた。
ブライアンが後ろを振り返ると遥か後方にトレーラーがほとんど車線を塞いだ形で止っているのが見えた。
巻き込まれた車がいたかどうか気にはなったが、どうにもならなかった。
前方にも後方にも全く車の影がなくなり、あたりは奇妙に静まりかえってしまっていた。

反対車線の車はまだ異常に気付いていないかのようだった。
「心臓がドキドキしてしまってもうダメ、取りあえず一番近いところで降りるわ」
と言うとエリザベスは車を発進させ二人は前方に見えてきた出口でハイウェイを降りた。
すぐそばの大きなモールの駐車場に車を止め二人は初めて大きく安堵のため息をついていた。
「ミッション ビューホーよね・・」エリザベスがつぶやきブライアンも
「何度か来たことがあるよ」と応じていた。
「私、もう駄目かと思った、もしかしたら死んでたかも、 
少なくとも意識を失うほどの重症だったかも、
追い抜かれたとき、大型トレーラーのくせになによ!ってあおられてしまったみたい、
あそこでスピードを上げずにむしろやりすごしていれば、あんな思いはしないで・・・ごめんなさい」

エリザベスの言葉に「そうしていたら今頃渋滞の先頭にいて、
トレーラーをクレーン車が動かしてくれるまでずっと待ちぼうけだった」
自分でも驚いてしまうような言葉を口にしながらブライアンはエリザベスの肩を抱いていた。

普通に考えればトレーラーに追い抜かれ、エリザベスが、あおられたかのように、加速した時点で
「スピードを落とせ」と云った筈だった、
ブライアンの心に「どこかに突然備わった自らの能力から生み出された傲慢さ、油断があった」
という想いが湧いていた。
しばらく気を落ち着けるように黙っていたエリザベスが
「でもあれ、貴方がやったのよ、車ごとトレーラーの先のほうに移動した、
しかもあれは、瞬間じゃなかった、車ごといきなり飛び上がって、
今度はゆっくり着地するところを確認するようにしながら、降りたわ」

「貴方、一体どこまで凄い力をもっているの、・・・私のだんな様・・」
「私を、殺さねえでくだせえ、なんでも言うことをききますだ」

「ああ、もう、私ってこんな時に、おどけてる場合じゃないわ」
「モールのどこかでお茶でもと思うけど、とても人に聞かれて構わないような会話をする自信がもてない」
「アパートに戻ったら、あんな運転をした私今夜こそ、本当にお仕置きね」
「もう、昨日から、普通の女だったら気が狂うような体験の連続」
「でも私って結構タフかも」

興奮がおさまるまで二人は駐車場に止めた車の中から出られなかった。
やっと、せっかく寄ったのだから、という気持ちでモールを散歩し、
軽い食事を摂る。中途半端な時間に起き、食事を摂っているため、
空腹になったらアパートで何でも食べられるようにと買い込んだ、
パン、キャビア、デリカテッセンのハム、ソーセージ、・・・・大きな紙バッグを積み込み、
二人がミッションビューホーを後にしたのは夕方5時だった、
ラッシュと反対のハイウェイは快適に流れ、
夕刻7時前エリザベスのアパートの駐車場に二人のメルセデスは滑り込んでいた。

あんな事件のあととは思えないほどエリザベスは落ち着いて、
次々とブライアンに切り出していた。

ワインのグラスを片手に「私の休みの間に貴方のIDを確立しておかなければ、
それまでは私のIDが役に立つわ」

「ねえ、貴方はもしかしたらIDがなくても
この世界でそれ程不自由ではないかも知れない」
「そんなに急ぐことではないとしたら、私はハネムーンの続きで休暇を過ごしてもいいけれど、
物事を進めていきながらでも、旅行を楽しむことができるかも知れないし」

そんな会話の間にも
エリザベスがミッションビューホーで買い込んだ何種類ものチーズ、ハム、
サーモン、キャビアをセンターテブルに手際よく並べていた。

ブライアンもチーズ、ハム、サーモンをつまみ、
スコッチを口にしながら考え込むようにエリザベスの言葉に耳を傾け、口を開いた。

「僕が、当面この世界で生きていかなければならないのは間違いのない現実なんだ」
「しかし今のままではそのために、いちいち」
「もし僕にそういう力が本当にあるとして、・・・
心に念ずることで、人の意思や、意識を動かしたり、暗示に掛けたりしなければならない」
「僕に備わっている、と君が思っている超能力がどんなものなのか
実験、検証してみなければ、物事の進めようがない」

「それによって、この後何をすべきか、何が出来るのかも決まってくる」
「ごめんなさい、私ばかりが興奮して貴方のことをああしろこうしろって言ってる、
今度は貴方のほうから何かお話を聞きたいわ」

エリザベスが興奮を抑えるようにソファーに座りなおす。
「いくつか、実験、のような事が必要だと、感じている」
「あまりやりたくないけれど、ものをそれも相当大きなものを動かすことが出来る、
ただそれにはハッキリ認識して一瞬でも念ずることは必要なんだと思う」

「しかし、今日のトレーラーのようなケースを経験すると、
意識し、認識するひまもないうちに災難や、
暴力に見舞われたらと言うことを考えてしまう」

「それと、人の記憶を塗り替えたり、摩り替えたり、
思うように動かしたりと言うことができるのか?」
「この実験は誰を相手にどんなふうにやればいいか?」
「君を相手に何かをする訳にはいかないから」

「そんなことは、判っているわ、私も考えてみたから・・・・、
貴方は私の心を操るようなことはしない」
「そんなことをすれば、そのために変わった私のなにかに、貴方の責任が生じてしまう、
自分が操ったためにこうなっているのか、と考えてしまう、
いいにつけ、悪いにつけ何も信じられなくなって、

私が居なくならない限り問題が解決しないということもあり得るの」
ブライアンは飛行機のなかでエリザベスの態度がそっけないように感じたとき、
「虜にしてやってもいいんだぞ」と心のなかでつぶやいたのを思い出した。

そしてあの一瞬の思いがエリザベスを今のようにしている可能性を否定したかった。
この先、もし可能だとしても、エリザベスの心を操る、
というようなことはしたくない、
僅かの間にこれほどまで身近な存在になり、
愛しいと思える人の心が本物ではないなどということには、耐えられないと感じていた。


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