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                                    異空の神



第1巻



第 4 章
飛  躍

 
スーザン

突然家の電話が鳴った。
クリストファーのオフィスからだった。
「ミスター・ラウル・・早速ですが・・・
ルーディー・マクドーネルと連絡がつきまして、
彼は明日から2日間の出張になるということですので、
今夜7時に会長のオフィスに来るよう約束いたしました。
少しでも早くということでしたので決めさせていただきました
ご都合は宜しいでしょうね・・・・」
嫌もおうもなかった。
「会長に相応しいリムジンと運転手を私の一存で用意しております
今から40分後6時15分に建物の車寄せにやりますのでお乗りください」


ブライアンがパーマーから言われたとおり6時15分丁度にBLハウス1階のロビーに降りると
そこにはもう、エリックと制服のドライバーが並んで立ち、待ち構えていた。
車もドライバーもレンタル会社のもののようだった。
ブライアンの心の中で、気心の知れたドライバーと最高のリムジンを
欲しいという気持ちが芽生えていた。

「到着しました」とドライバーが車寄せに止めたその建物のエントランスには
クリストファーとその秘書ソフィアが出迎えていた。
「先ずは会長室をご覧になってください」

29階専用になっているらしいエレベターにのると
ソフィアが「早速ルーディーに会っていただいて恐縮です」と挨拶する、
一瞬、背が高く魅力的なソフィアを目にし、
彼女が自分に抱いた印象を知りたくなったブライアンは彼女の意識の表層を探っていた。
「ミスターラウルのお歳は分かっていましたが、
お歳以上にお若く見えますけれど、
何か本当に偉い方という感じで威厳がありすぎる・・・・」
素直に感じたことを意識の表面に並べているソフィアに対し、ブライアンは恥ずかしさを覚え、
一瞬で撤退した。
そもそも、自らのそんな能力に気付かなかったことも理由だったが、

その能力に気付いたその後でも、エリザベスの本心をも探ったことがないのだ。

「他人の意識を探るなどということはあまり気分のいいことではない・・・」
ブライアンは改めて感じていた。

案内されたブライアンのオフィスは
豪華なしつらえ、備品、調度、広さと申し分なかった。

大きく広がる窓からのぞむダウンタウンの景色は
B/Lハウスからの眺めよりも遥かに近く感じられた。
部屋に落ち着くとすぐクリストファーが反対側のドアから
ブライアンと同じくらいの年配に思える男を招じ入れた。
ルーディー・マクドーネルだった。

クリストファーから紹介されたルーディー・マクドーネルはブライアンより少し背が低く、
かなり頑丈そうな肩幅の広い男だった。
その割に顔立ちは繊細さを漂わせ、
野心をギラツカセた感じとも違う真摯な眼差しでブライアンと向かい合っていた。
それでもブライアンは油断なくルーディーの意識の表層に探りを入れながら
「この建物の隣接地に車のディーラーを開業するというプランをお持ちだと聞きました、
どんなことをお考えなのか、お聞かせいただけますか」と口を開いた。
「正直に申しますが、この建物の脇の公園のように整えられた土地は、
規模こそそれ程では在りませんが、ショッピングモール、それも最新のコンセプト、
つまり周囲の比較的富裕な住人の、ニーズを的確にとらえたモールに隣接しています」

「どこの自動車メーカーもここに販売店を置く事が出来れば・・・と思っているのです」
「ここでメーカー資本のディーラーを開業できればと狙っている・・・これは真実です」
「ソフィアと婚約し、お兄様のパーマー氏を紹介され、
二人のための将来についての話になりました」
「この建物にお邪魔し、建物と隣接した土地を彼が管理している事を知り驚かされました」
「私が今仕事をしているのはメーカー系ディーラーです。そこでもここの土地は注目されています」
「これまで具体的にそのような話が進んでいなかったのが不思議なのですが、
彼と話をする機会を得て納得がいきました」
「彼は私に、持ち主が外国から帰るまで一切あの土地のことについて話が進められない」
「彼は、『もう直ぐ持ち主のラウル氏が戻る、このことは他に一切洩らすことなく、
事業プランを秘かに練っておくように』
『納得のいくプランならば必ずラウル氏はOKを出すに違いない』
といってくれたのです」

「私はソフィアとの婚約に運命的なものを感じました」
「私のプランですが、ここには5軒のディーラーと
それに相応しいバックヤードを置くだけの充分な土地があります」
「どこの車が売れても構わない・・・5つのメーカーの独立ディーラーを・・・
つまり5つの販売会社を同時にスタートさせ、競わせる」

「ここにくれば一時にどこの車も見られ、試乗することが出来る」
「そんな場所にすることが一番のアイデアです」
「私には5つのメーカーを納得させる自信があります」
「資金を一切メーカーに頼ることがなければ、こちらのほうが優位に立ち交渉に臨めます」
ルーディーの意識の表層には一切怪しい迷い、よどみが感じられなかった。

ルディーが続けた「巨大な工場を建設するわけではないので、
資金的にはパーマー氏から伺っている情況・・・つまり建物の建設費、
早く立ち上げるため、初めはプレハブ建築で充分だと思いますが、
それとそのほかのバックヤードで必要な設備・展示車両についてのメーカーへの保証金などは
全く問題なく用意できるということで」
「もしMRブライアンがこのプランに賛成なさるとしてですが、
やらせていただきたいと思っています」
「ただ、それには私自身のことも考えていただくことが条件になります」
「ハッキリ申し上げますが、私のペイの問題です。
支度金として、といってもデイーラーを完全に開業できたときで結構ですが、
50万ドルいただきたい。それとサラリーは、一月分を前払いとし年俸で現在の1.5倍、
15万ドルとしていただきたい」

ブライアンは同席したパーマー弁護士の顔を見やりながら
「原則的に希望はのむとしましょう、但し、あくまでも誠実な勤務を前提とします、
そこを踏まえ彼との契約を至急すすめてもらいましょう」ルーディーにむけ
「貴方をB/L実業の自動車販売部門の執行役員
として迎えます正式な肩書きなどはパーマー氏とすぐ相談します」といいながら
「誠実に会社に尽くし会社の発展に寄与すること、
会社のオーナーであるブライアンに忠誠を誓うこと」と念を送っていた。
それまで一気にまくしたてていたルーディーが急に深刻な表情を浮かべ
「採用有難うございます私の夢もオーナーの夢も叶うよう思い切り努力してまいります」
と言いながらブライアンの手を握り締めた。

ルーディーは出張明けに夏休みをとっており、
事実上そのあとはB/L実業の業務に邁進するつもりだった。
「出来れば一月で、掛かっても二月で5つのディーラーを開業させます。
時間に幅があるのは夏休みシーズンの最中、メーカー側のしかるべき人間をすべて掴まえ、
話しを進めることが出来るかどうかが気がかりで」ということだった。

ブライアンが意識の表層を探った限り、
ルーディーの自信に間違いはないようだった。
ルーディーが帰ったのは午後8時だった。

急にクリストファーがブライアンに真剣な顔を向け
「B/L不動産の社員は貴方様が来られるということで待っていたがったのですが、
『明日朝出社されるし、夕刻には食事会を設定しているのだから』と帰らせました」
「それと、夕食はいかが致しますか時間はもう・・
宜しければソフィアも一緒に近くにご案内いたしますが」とたたみかける。
ブライアンはあの秘密の空間のクラブハウスで「済ませた」とも言えず、
クリストファーに促されるように、エレベーターで1階に降り、
エントランスに待たせてあったあのリムジンに乗せられてしまった。20分後、
3人はダウンタウンのホテルの中、日本料理店の個室に落ち着いていた。
ブライアンにとってあのジョニーのとき以来始めて、
エリザベス以外の人間と食事をすることになった。
ブライアンはクリストファーが有無を言わせぬ態度で食事に誘ってきたのには、
何か訳がありそうに感じたが敢えて意識を探ろうとはしなかった。

食事が進むうち「少しでも早く決めたい事、すすめたい事があります」
・・・クリストファーが切り出した。
「まず、貴方様の秘書、会長の専用車、運転手、それと、
いよいよ事業を始めることを踏まえ、勿論大きな金額は貴方様の承認を必要とすることとして
比較的自由に払い出しの可能な、当面の資金でございます。
B/L実業に役員貸付金として、1億ドルを入れていただきたいのです、
かなりの金額ではありますが、出資金としますと返還が困難になります。
株式を上場でもしない事には・・・」

「資本金として、其分を繰り込んだ場合例え上場したとしても、
それまでに掛かる年月も問題と思われます」
「それと資本金とした場合株式を上場して公開し資金を回収すると、
会社に他人資本・・・持分が生まれることも問題だと思いました」・・・・・・・・
「それに会社に巨大な利益があがれば配当でも其分は取れます」・・・・・・・

「それと私の報酬のことになりますが、B/L実業につきましては、
役員報酬相当ということで当面税引き後純利益の10%をいただきたいのです」
「利益はでるものかどうかハッキリしませんので、
その分無報酬ということもかんがえられますが」
ブライアンはクリストファーの意識を探った。

唯必死の思いで正当な報酬をもらいたいというだけの
心の動きが捉えられた。
「わかりました、貴方の取り分が1千万ドル以上にならない
という条件つきで其条件は飲みましょう」
ブライアンは内心「いくらなんでも最初の年からそこまでの利益は出ない」
と計算していた。「それとクリストファー貴方のことだから、
僕の秘書の候補はもうそろそろここに到着するんじゃないんですか?」
一瞬読めてしまったクリストファーの意識の表層を「これくらいの事は言ってやろう」
とブライアンが口にしたのだ。
さすがの、クリストファーも・・・
口ごもりながら「ソフィアが・・ソフィアがどうしてもというものですから・・・彼女は・・」
ソフィアが引き取る「名前はスーザン・・・・スーザン・ベイカーといいます。
私の大学時代の友人で、とても優秀な秘書です。大きな会社の重役秘書をしています」

「彼女は人材派遣会社の派遣秘書で、
お給料が殆ど上げてもらえないので、可哀相で、
しかも同じ職場に長くなると派遣先がお役所から正規雇用を勧告されるとかで
2年ごとに職場を変わらせられるのでいつも不安定な気分で・・・・
ほんの2日前また仕事が変わるということで、もう仕事の引き継ぎも済んで、
今日から夏休み休暇に入るのでいつでも職場を移れるんです」

個室の電話が鳴りソフィアが出る。電話に出たソフィアが
「スーザンが着いたみたいなんです、でも会長、
実は彼女にお仕事の話はなにもしていないんです。
お気に召さなかったら、
たまたまの機会でお食事をご一緒したというだけで宜しいんです」
「会長とはたまたまこちらでお会いして逆にごちそうするから同席させろと言われて
この席をとったということにしても」

「色々と彼女への言い訳も考えていたんです、
父のことは昔から知っている『懐かしい“娘の友達”に会いたいと言っている』
と彼女には言ってあります、父は彼女とは、昔、何度も会っているんですよ、
・・だからそれも本当のことです」

そこまで言うとソフィアはスーザンを迎えるため出ていった。
待つ程もなくソフィアが
「父も待っているの、若い会長さんも一緒に貴方を待っているわ」
そう言いながらソフィアがスーザンの身体を押すように部屋に入ってきた。
「なんだか、お邪魔じゃないのかしら」
と部屋の入り口に立ったスーザンをクリストファーとブライアンが立ち上がって迎える。
「地味な服装だ・・・でもソフィアと同じ歳にしては、若く感じられる・・・・
髪の色はそれ程派手ではないが魅力的な・・・」ブライアンの最初の印象だった。
「会長は今は独身・・・でも婚約者がいらっしゃるみたいよ」
ソフィアがスーザンへの忠告のような言い方をする。
「スーザンは現在恋人募集中なんですって」
「会長さんのお友達でいい方がいたら紹介してあげて下さいね」
とりとめのない会話で食事は進んでいった。
ソフィアが何とかスーザンを現在の人材派遣会社からの派遣秘書という立場から
もう少し待遇のいい職場に変わらせてやりたいという気持が言葉の端々に感じられ
ブライアンはできるだけしないつもりだった、意識の探りをスーザンに走らせた。
本当の彼女の思いを知りたかった。・・・
ブライアンとしてはスーザンを人目見たときから自分の傍には置きたくないと考えたからだ。
彼女は実はブライアンにとり困った存在になりそうな気がしたからだ。
エリザベスがいないのなら問題はなかったが・・・・・。
それと結婚とか妻という言葉が似合うタイプではなかった。
ある意味で仕事の関係だけに収まらない相手という気持を抱いてしまうかも知れなかった。
透けるような肌、全体的に華奢な体つき。背はソフィアと同じくらいだ。
スーザンの意識に探りを入れたブライアンは彼女が何も隠していないとわかった。
唯一つ・・・ブライアンが恐れたとおり外見からはあまりわからない彼女の肉体だった

彼女は自分の透きとおるような白さの、きめ細かな肌、
くびれた腰、そして何よりも衣服を取り去ったとき、
見る者にため息をつかせるに違いない、大きくエロティックな乳房・・・
彼女はこれまで出来るだけ隠してきた女の魅力、武器に絶対的自信を持っていた。

彼女の誇りは、ある意味でソフィアが想像しているよりも大きいのだ・・・
仕事にも自信をもっていた。秘書として意に染まぬ相手にずっと縛られるより、むしろ今の情況のほうが最終的に可能性が大きいとも考えている・・思わぬ野心を心に秘めていた。
唯、女としてそろそろ年齢的なことは気にしているようだった。
ブライアンが口を開いた「派遣秘書というお仕事と聞いていますが、
これまでどんな会社での仕事だったのかな?」
「これまで殆ど同じ会社の中で2年ごとに、違う方について秘書をしていました」
「自動車メーカーの販売関係の幹部秘書で重役秘書ではありません」
「重役秘書は会社の正社員ですから、言い訳みたいですけれど大学卒業と同時に就職したときは
大きな会社の正社員でした」
「でも1年ほどして重役さんに言い寄られてしまって・・・
訴えようかとも思いましたが、お互いにとって得はないことはわかってましたので」

「そのころ、私、今とは全然違う服装や態度でした『女としての魅力は武器だ』
なんて教えられて、私、馬鹿でした」
「挑発したと言われそうでした、
それでその会社を辞めて今の派遣会社に登録したんです」

ブライアンはいろんな意味で
自分が誘惑に負けてしまっていることを素直に認めることにした。
彼女はこれまで秘書という、企業の幹部と同等の情報を得る事のできる立場を有効に生かし、
多くのことを学んだと、自負している。

企業のエグゼクティブがどんなファクターをチェックし
どう気持を動かしどう人に働きかけるか・・・自分ならこうする・・・ああはしないといったことまで日頃から頭のなかでシミュレーションしてきたのだ。
ブライアンは「自分から彼女に言い寄ることはない」とだけ心に誓い
「ミス・ベイカー・・・」
と呼びかけた「スーザンでいいんです・・」
「それでは、スーザン、僕はまだ自分で事業を経営したことはないんだ、
まあちょっと大げさな言い方かも知れないけど、これまで10年間あらゆる業種で勉強してきた、これから始める事業は当然だけれど本当にまともな商売になる」
「それと、成功は間違いない」
「スーザン・・・雇用条件が納得いくものになるとして、
僕の秘書をやる気はないかな?場合によっては秘書以上の存在・・変な意味ではなく、
まだ一人も僕の会社に従業員はいないんだ」

スーザンはソフィアとクリストファーの方を見やってどう答えようかという顔をした。
ソフィアが「もしかしたら、こんなお話になるかもって、思ったけれど」
「ミスターラウルは人の能力やそのほか何でも見抜く才能のある方だと父が言ってましたから・・・
貴女の力を一瞬で感じとっていただけたのかも」
ソフィアが嬉しそうにスーザンを見やる。
「叔父様・・」スーザンがクリストファーのほうに向き直り
「MRラウルは叔父様にとってどんな存在なんでしょうか?
私は彼のことを全く知らないんです」
クリストファーが一瞬考えこむ様子をみせてから口を開く、「MRラウルは私の雇い主で、
私が事実上の社長をしているB/L不動産という会社のオーナーそれと、
私のオフィスのあるB/L不動産ビルのオーナー
そのほかに大変な額とだけ言っておくが投資家、それと

今後開発が見込まれる有望な土地を2000エーカー持っておられる」
「まあまだまだそれ以上だが、・・・彼には異常なツキ、・・・幸運がついてまわる」
「私の人生はそう・・・彼によってもたらされたといえる・・・・・」

「あんなに立派なお屋敷に住んでいらっしゃる、
パーマーさんがそんなおっしゃりかたをするなんて」・・・・・・

スーザンはブライアンに向かい「本当にただのスケジュール管理のお仕事ではなく、
少なくとも、従業員がそろって、組織が整うまで、
会長の補佐役の一人として待遇していただけますか?」

「それとお給料はソフィアと同じ待遇をしていただけます?」
ソフィアに対する思わぬライバル意識が見えた感じに一瞬ソフィアの表情がこわばった。
ブライアンは慎重にクリストファーとソフィアを見やり・・・
「第一の条件についてはイエスだ、それと給料の方は、
悪いようにはしないということで・・・・」

「組織的にソフィアはクリストファーの法律事務所或いは、
それと、B/L不動産の職員ということになっていると思うんだ」

「クリストファーがソフィアにどれだけ賃金を払うかは彼の方の問題ということになる」
「君はブライアン・ラウルホールディングスの従業員でB/L実業へ現職出向の形を取る。
(現職出向:元の職場に席をもったまま他の職場或いは部署でも仕事をすることが許された形の出向)
ブライアン・ホールディングスの従業員第一号だ」
「明日の朝、僕から君に雇用条件のことはお話ししたい・・・
充分に満足できる条件は用意したいと思う」
「いきなりだが事情はわかっているつもりだ」
「明日朝9時に僕のオフィスに来られるね、条件が折り合えばその場から勤務してもらう」
ブライアンはスーザンの頭に思わぬ金額の支度金を想像させるように念を込めていた。
食事が終わり、待たせてあったリムジンに乗り込んだ4人は、
以外に近い場所のアパートメントに住むスーザンを送り、次にブライアンが降りた。

リムジンは借り上げのクライスラーだった。
「明日早速、スーザンの初仕事としてメルセデスのリムジンを発注させよう、
車の納入に合わせて、ドライバーを雇うか・・派遣会社に話を入れさせるか・・・・」
ブライアンは9階のリビングに落ち着き、
エリザベスと連絡を取り合っていない事を思い出し
電源を切っておいた携帯の留守電サービスをチェックしてみた。
エリザベスの声が飛び出す「特になにもないけれど、なかなか電話が繋がらないのは、不安にさせるわね、貴方に限って事故なんて考えられないんだから」
「明日携帯に連絡をください・・浮気はだめよ・・・・」
ブライアンはどこか後ろめたい気分にさせられていた・・・
スーザンのことが気になった・・・」

「彼女はかなり有能そうだった・・特に初めの仕事が車のディーラーであることを考えれば
スーザンの厳しい目がルーディーに注がれることは目に見えていた」
ブライアンはスーザンが自動車メーカーに身を置き、
あらゆる情報に目を配り観察してきた成果がルーディーの
手助けをすることもあるかも知れないと想像した。
ルーディーが着実に仕事をすすめてくれれば、目に余ることをしない限り
ブライアンが軽く念を送りけん制するだけですべてが円滑に進む筈だ。
唯、明日、明後日はまだルーディーはオフィスに顔を出す事はない。
ブライアンは明日以降どんな生活が待っているのか、
興奮と期待に包まれる気分で文字通り異常に長かった一日を振返っていた。
急速に眠気がブライアンに襲い掛かっていた・・・
実質24時間以上眠っていなかったかも知れない。
用心深く寝室の目覚ましを7時にセットし、
シャワーを浴びたブライアンはベッドに横たわった瞬間もう眠りに落ちていた。

ブライアンは翌朝目を覚ますとすぐにエリザベスの携帯に電話をいれた。
特に変わったことはない様子だった。

「今日から毎日出勤するようになる、
今夜はB/L不動産の5人の社員と夕食会が予定されている。
詳しい話は明日の夜、君が直接僕の家の方に戻ってきてもいいし
君が自分のコンドミニアムに戻ったら僕が飛んでいってもいいし・・・」
ふたりは笑いながら電話を切った。
8時半に家の電話が鳴った。リムジンのドライバーから、
「車寄せでお待ちしています」という連絡だった。
ブライアンが9時前にオフィスに着くともうスーザンが
ソフィアと楽しそうに話をしながら待っていた・・・・
ブライアンがソフィアに向かい「スーザンのお相手をしてくれて有難う、
この後はスーザンと大切な話になるから」と言うとスーザンに
「約束どおり先ず僕の部屋で話をしませんか」と切り出す。

会長室の豪華な応接ソファーに座り、
ブライアンに向かい合ったスーザンはさすがに緊張した面持ちだった。
「まだ君は何も聞いていない筈だけれど、
この建物の脇に公園のようになったかなり広い土地があります」
「あの土地を利用して、車のディラーを立ち上げたいと思っています。
それも一度に5軒」
「5つのメーカーの車を扱う店です」「無論メーカーの側からすれば、
それぞれ別会社でなければ困ると思います。
ですから5つのメーカーのディーラーが軒を並べる格好になるわけです」
「5つのメーカーの車を同じ場所で見て回れるメリットは
車の購入を考える人にとっては大きいと思います」
「まず貴方が車のメーカーの販売部門を観察してきた目が
そこに生きることを期待しています」

スーザンが口を開いた「メーカーの販売部門が独立ディーラーを
どのように見てどう扱うかはかなり観察してきたつもりです。
彼らは多くの場合ディーラーの一番の弱み・・・
資金繰りに目をつけディーラーの意志に関係なく
都合で車種を絞って売らせようとします。
納車の時期を早めたり、遅らせたりも」

「ディーラーの資金力、販売力が強ければそれだけ人気車種を短い納期で
ユーザーに届ける事も可能になってくるケースは見てきました」

「それ以外に、ディーラーとしてのほかの仕入れ関係、
例えば修理の板金関係の下請け業者、その評判・バックヤードの整備用機器、
取替え部品など、その仕入れ、値段の仕組みも出来るだけ見てきました」
「系列のディーラーの立ち上げも充分観察させてもらいました」
「その点からもまだ従業員の殆どいないこの会社で事業を立ち上げる上で
お役に立てることは少なくないと思います」
「特に男性の目が届かないところに女性の目は必要です」
「料理が得意だとおもっている男性でも、
どこでどんな食材を仕入れるのが経済的で、
なおかつベストなのか、どんな器にどう盛ると美味しそうに見え、
きれいか、までは考えないものです」
ブライアンはなんだか良く分からない気分で
“スーザンのような目は必要だ”とだけ感じていた。

「それでお約束の給料とその他の待遇の件ですが」
ブライアンはスーザンの目を見、意識を探りながら話を進めようとしていた。
「会長、昨晩ソフィアと同じ条件と言ったのは、
ついこれまでの悔しい思いが言わせたことで、彼女に対抗心を燃やしている訳ではないのです」
「でも、私もそろそろ、真剣に人生設計を考えなければならない歳に差し掛かっています。
結婚という言葉にこだわる気も今はないのです、人生って成り行きですから、
また例え結婚ということが将来あったとしても、
自分自身のビジネスは持ち続けるつもりです。

昨晩、ソフィアのお父様の話を聞いて、
会長の幸運・・・というものに私も一枚加えていただけたらと思いました」
ブライアンはスーザンの意識の表層に浮かぶ彼女の金銭的望みが
以外に小さなものであることを知り考え込んでいた。
彼女の今の年収は4万ドル位だということまで分かってきた。
ブライアンはもうひとつ彼女に言うべきことを、思い浮かべていた。
「スーザン、貴女はこのあと私が提示する報酬に対して、多分充分満足する筈です」
「貴女は今現在私が自ら決断し雇用したブライアン・ラウル・ホールデイングス、
唯一の従業員ということになります」

「ここからは機密事項として誰にももらさないで下さい」
「この会社のこれからの経営資金として、多分今日、明日のうちに、
会社の銀行口座に1億ドル、私の個人貸付金・・・・役員貸付金が振り込まれます」
「この振込みのことは我々二人以外、クリストファーだけが知っています」

「ただクリストファーはB/L実業にこの金が振り込まれると思っています」
「しかしB/L実業の事業資金は必要に応じてブライアン・ラウル・ホールデイングスが
B/L実業に貸し付ける形を取ります。
貴女にはブライアン・ラウル・ホールデイングスの、
その資金の金庫番をお願いします」

「例えクリストファーでも私から貴女に出金の予告のないものは出さないように、
その権限を貴女に与えます」
「一方貴女は私かクリストファーの了解なしに出金できないものとします」
「無論手元現金或いはそれに相当する2万ドル程度の常備金は別扱いとしてください」
「それらの出金システムを至急検討し、私の了解の後実行してください」

「いよいよ、貴女の給与に関してですが、
まず支払いは月ヾということで、年俸10万ドルとします」・・・・・
スーザンの顔色が変わった・・・・「どうしました不満ですか」
ブライアンが心の中でニヤリとして聞く・・・・
「とんでもない・・・充分です」
「それは良かった、でももうひとつの条件はもう少し驚きますよ・・・・
ディーラーが開業できた時点でブライアン・ラウル・ホールデイングスで必要とする乗用車を
5台、5つのデイーラーから1台ずつ買い入れます」
「この手続きはすべて貴女がやることです・・・・
ところでそのうちの一台は貴女の好きな車にしてください、
貴女の専用車になりますから、メルセデスの600クラス迄認めます」
「その他の車は1台が私のためのリムジンと、
ディーラー立ち上げの責任者となるルーディー・マクドーネル・・・
ソフィアの婚約者の専用車です・・・車のことは別途そのつど決めていきましょう」

「次に貴女の支度金です」
スーザンは昨晩何故か急に
「支度金は期待できるのかしら・・・」
出来れば住まいも今より高級な所に住み替えたいし、
会長秘書ともなればドレスも持ち物もそれなりにしたい」
「そうでなければブライアンに恥をかかせてしまう・・・・・
10万ドル位欲しい」そんな楽しい期待が頭に浮かんだことを思い出した」
「支度金として30万ドル今日中に
貴女の銀行口座に現金で預金してください」

「この分は今日わたしのバッグの中に入っています後で一緒に銀行に行きましょう」

「それでは、なんだか会社ではなくて貴方にもらうみたいで
・・・それにそんなに沢山・・・」
「会社から支払えばすぐに所得税で相当もっていかれてしまう・・・
何かあっても私が秘書に自分用の出金のため
まだ会社の銀行口座も経理も整備されていない段階で一時預けていると答えられます
・・・少なくとも領収証になった分については何が起きても
貴女の所得とはみなされないでしょう」
「それにしてもそんなに高額の支度金・・・・・・・」

「貴女にはブライアン・ホールディングスの会長秘書として、補佐役として
対面をつくる義務があります」

「それと貴女はこれから大きく成長する筈のB/L実業の親会社の金庫番です」
「充分な処遇をしないと・・・・つまり失うものが多くないと」
「人はその立場で何をするか・・・ということでいいのではないでしょうか」

「それと、納得できる出金であれば支度金はまだ補充する準備がありますから」
スーザンは心のなかで
「本当・・・これって夢じゃないの・・・・」と思いながら
ブライアンの次の言葉を待った
「次に支度金のことは、一切誰にも話してはいけません
今のところ貴女と私だけの秘密にしておいてください・・・
それと給与のことも、ソフィアやクリストファーに言う必要はありません」

「それと、出金の情況・・会社の経理に相当することは・・・
多分貴女の友人に公認会計士の資格を持った方・・・
女性を雇いたいと考えていますまだ充分時間的余裕はありますから
考えて探してみてください」
「採用するかどうかは私自身がその人に会って決めることにします」
「当面お金の出入りに関しては貴女が、私と相談すること」
「それと、私が住まいにしているB/L不動産ビルがこの近くにあります・・・・」
ブライアンは「クリストファーの提案したレストランの計画にもお目付け役として、
金庫番として君に働いてもらう」と命令していた。

「とは言ってもまだ会社の仕事は、始まっていない」
「まず朝のうちにブライアン・ホールディングスへの1億ドルの資金振込み」
「きみの支度金を君の銀行口座に入れる・・・
銀行めぐりをしなければならない。秘書として付いてきてくれるね」
「もちろんです・・・・・」

「その前に隣のオフィスからクリストファーをここに呼んできてくれるかな、
彼とソフィアには『会長秘書として正式採用されましたお口添え有難うございました』と
挨拶してからクリストファーだけをここに連れてきてください」

ブライアンはクリストファーにスーザンの会長秘書、金庫番、
お目付け役としての位置づけを説明し反応をみてやった。
クリストファーは明らかに不満そうだった。

スーザンのような小娘に金の面でもその他の面でもチェックを入れられる自分の立場に
かなり不満の様子が意識の表層に現れた。

さらに「どうせそんな形で秘書を雇うならソフィアを会長秘書として、
スーザンを自分の秘書にという方が筋が通っている」という思いも感じ取れた。

ブライアンはクリストファーの目を見据え
「私の考えに不満をもたないで・・・
貴方には今後B/L実業の事業全体の陣頭に立ってもらう訳なのですから、
余計なことに気を遣う暇はないと思いますよ・・・
取締役・或いは執行役員・・社長・・・貴方の弁護士資格を考えて
どんな肩書きが相応しいのかわかりませんが。
経理担当重役を兼ねる事はありえませんから、
入、出金については当然権限外ということにしておかなければ、
何かのときに余計な責任を負わなければならないことになりますよ」
「それと貴方の報酬は貴方の希望通り認められていることをお忘れないように」
と口に出すと同時に強く念を込めた。

「分かりました・・おっしゃるとおりです・・・
ところで、レストラン事業の方はどんどん話しを進めております」
「庭園、駐車場、レストランの内装とプランはすすんでいます」
「それとそれぞれのレストランの総支配人といいますか責任者の候補も用意しておりまして
今日の午後にでも採用の面接をお願いしたいのですが・・・・」

「それと昨日から、B/L不動産の従業員がお待ちしております」
「会ってやっていただきたいのです、なにしろ貴方様は会社のオーナーで、
尚且つ唯一最大の顧客という方ですので・・・」
ブライアンは自分から出向いた方が・・・とスーザンを同行させ、
同じ階、すぐ隣のB/L不動産のオフィスに向かった。
ブライアンが姿を見せると5人の従業員と秘書のソフィアが席から立ち上がって出迎えてくれた。
クリストファーもソフィアもここと法律事務所の両方にデスクを置いているようだった。
クリストファーが一人ひとり紹介してくれる。
「ジミー・ヘンドリックスは・・・
貴方様のお住まいになっているB/L不動産ビルに関しては彼が責任者となっております」
「今後レストランの開業を踏まえ、建物の管理をどのようにしていくか」
「どこまで管理会社とその契約者・・清掃ですとか機械、備品管理整備などに権限を与えるか
貴方様とも相談させていただくようになります」
ジミーはクリストファーと同年輩のブライアンよりも大柄な物腰の柔らかい男だった。
白い口ひげで威厳を保とうとしているようだった。

「ヘンリー・クラークはそちらのマリア・オドーネルと一緒に
ここのビルの担当です一階の奥に
セキュリティー・コントロールセンターという一角がありまして
そこにこちらと契約しております、管理会社のスタッフが8名常駐しておりますが」
「そのチームのボスのボスということになります」

ヘンリーは40少し過ぎと思える、いかつい顔をした大男だった。
一瞬意識のアンテナを伸ばしてしまったブライアンには彼が、元警察官で、
マフィアがらみの事件の捜査が進む中でなんと
仲間の警察官に背後から左胸を撃たれ、
九死に一生を得たこと、彼は、撃たれたのは事故ではなく、
撃った警察官が実はマフィアの手先だったと信じていることを読み取っていた。

さらに、ブライアンに対する「この若造が俺の雇い主のそのまた雇い主とは!」
という不満めいた感情まで伝わってきた。
ブライアンはヘンリーに向かい合うと
「背中の傷はもう痛みませんか、私には貴方の強い正義感が伝わってきます・・
私の事業はこれからです、建物、施設の安全管理について今後良く勉強しておいてください・・
そうすれば貴方の仕事もこれから発展していくと思います」「今後ともよろしく」と手を差し伸べた。

一瞬でヘンリーが打ちのめされ“若造”
という言葉が彼の意識から消えるのがブライアンに感じ取れた。

ヘンリーはブライアンの事業の発展とそれに伴う自らの立場の可能性に
子供のように胸を膨らませていた。
ベテランの幼稚園の保母という感じのマリアはただただ
ブライアンの出現を歓迎してくれていた。

クリストファーが「こちらドロシー・クランプトン スージー・ドロワットソン・・・・
こちらの二人はアトランタのお屋敷の庭園管理
それと貴方様のお住まいのガーデニング管理やプランニング全般・・・
お住まいの9階の屋上ガーデンなどの植栽、デザインなども彼女達のプランで・・・
それと今のお住まいの家具、調度も彼女達で・・・」

まだ30代か?と思える小柄なドロシーが
「MRラウルのお歳ではプライバシーがかなり気になられる筈ですので、
9階、10階は出来る限り他人や業者の手をいれず、庭園管理、清掃が行き届くよう工夫してございます。
真夜中人のいない空間、昼間は人のいない時間の寝室と・・・
床掃除ロボットが滑るように清掃しているのにお気づきでした?」
「人手を入れての清掃は多分2週間に一度で充分だと存じます」
自分が同じ感覚の世代、つまり
「例え大金持ちであっても、『プライベートエリアには他人を入れたくない』人間が多い筈」
と言いたいのだった。

スージーも人の良さそうな巨体をゆすり「よろしくお願いします」
とブライアンに手を差し出し握手を求めてきた。

そこにいた全員に向けブライアンは
「今夜の懇親会を楽しみにしています、夕刻また皆さんにお目にかかります・・」
「それと私から秘書のスージー・ベーカーを紹介させてください」
「彼女はこのB/L不動産の関係会社、
ブライアン・ラウルホールディングスの会長である、私の補佐役をやってもらいます」

スージーが挨拶する
「今後なにかと私が生意気なことを言う場面があるかもしれません、
多分お腹立ちのケースもあると思います」

「そのときには,かわいそうに、またMRラウルに言わされているなと思ってください
悪いのは皆・・会長ですから・・・」

「ともかくよろしくお願いいたします」おどけながら喋るスーザンの言葉は本音だった。
その日のブライアンはこの世界に飛び込んだ後のどの日よりも
充実感、と生き甲斐に包まれていた。

午前中はスーザンとの銀行めぐりだった。
先ず現金で持ち歩いたスーザンの支度金を口座に・・
そしてブライアン・ラウルホールディングスの4つの銀行口座にそれぞれの銀行にあったブライアンの口座から2500万ドルずつ振り込んだ。
それぞれの銀行で支店長と会い、
「事業を始めるため今後さらに、現金が必要になる」
「今日引き落とした預金の分を補充するため、手持ちの国債を売却したい」
「相場に影響を与えないよう徐々にやりたいので協力して欲しい」と協力を約束させるのを忘れなかった。
地下の金庫室の現金、債権を表に出していくのだ。

ブライアンはスーザンと一緒にランチをとり、
帰りがけにB/L不動産第2ビルに隣接したあのショッピングモールを二人で歩いた。
ブランド店の並ぶフロアでエルメスを見つけると、就職祝いとしてバッグをプレゼントした。


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